ものにこだわる。

Lesson 10:「味のある家具」シリーズ Part 2

前回はモノにこだわる家具として実用的なアンティ-ク家具をいくつか紹介してきました。今回はその続きとも言える、1830年にデザインされた作品で、今も製造販売されている「THONET」の家具をご紹介します。


19世紀初頭、ドイツのミヒャエル・トーネットは、スチームによる「曲木技術」を試行錯誤の上、誕生させました。「曲木」の需要は当時の産業革命と共に急激に需要も高まり、量産システムの普及によって、アメリカ、アフリカ、アジアと広く世界に伝わっていきました。曲木の椅子が150年以上経った今も愛され続ける理由は、柔らかく優しいフォルムの美しさにあると思います。それにかつてのアンティ-クにはなかった軽くて丈夫という実用性も、これらが現代まで絶えることなく連綿と受け継がれてきた理由と言えるでしょう。

 

■THONETの原型

214 SERIES
214 SERIES

1859年に第一号が完成し、その美しさから「永遠のモダン」と称され、その後70年間で5000万脚が世界に広がったと言われています。現代では誰でも一度は目にしたことがあるデザインではないでしょうか。今では肘掛付(アーム)座面の張地(布)など選択肢も増えています。見た目の線も細く軽い感じなのでインテリアテイストのモダンの中でも決して主張し過ぎることなく、ガラスや金属のアイテムともマッチします。シングルライフのワンルームマンションなどで愛用者も多く、老若男女を問わず、根強い人気商品となっています。

■さらに座りやすく、贅沢に

215 SERIES
215 SERIES

214 SERIESの発表後、背もたれをつけ座りやすくデザインされ少し豪華な感じになったのが215 SERIESです。現在流通しているモデルは第二次大戦後にリデザインされたものです。同じく肘掛、背座面の張地の選択肢はあり、現在では木部の塗装も選ぶことができます。

 

このように途絶えることなく現代まで受け継がれてきたのはミヒャエル・トーネットのデザイナーとしての発想だけではなく、企業家としての柔軟性も伺い知れるところです。

■アートとデザインの違い

「デザイン」とは何か?

それを振り返って考えたとき、それは「アート」と「機能性」があいまって出来ているものと言えるでしょう。単にアート品(芸術性)だけなら、そのものから醸し出される美しさだけを称えていれば良いのかもしれません。しかし、デザインを考えたとき、それは使いやすさや触感、人間工学的な配慮、その時代の流行ともいえるニーズに合ったものでなくてはなりません。アート観のある実用品が「良いデザインの商品」であると定義づけられるのだと思います。

 

まさにその時代のミヒャエル・トーネットは良きデザイナーであったと言えるでしょう。時代が移り変わっても、原型のデザインを守りつつ、人々の暮らしや建築物が大きく変化したにも関わらず、そのデザインが変わることなく生き続けられることができているのはなんと素晴らしいことでしょう!

これから150年後の未来、現在生まれ続けているデザイン製品がいったい、いくつ受け継がれていくのだろうと思うと、この変化の激しい現代からは想像も出来ず、もしかしたら皆無ではないかという不安さえ抱かざるをえない昨今です。

 

 

 

 

 

2011.11.12