Vol. 12

ブラームス/弦楽六重奏曲第1番・第2番(ベルリン・フィルハーモニー八重奏弾団員)

1年近くのご無沙汰でした。さて、猛暑のつづいたこの夏ですが、気がつくとめっきり秋めいてまいりました。空を見上げると、刷毛ではいたような薄い雲を見かけるようになってきました。

 

ということで秋を感じると、私がいつも無性に聴きたくなる定番の曲があります。ブラームスの「弦楽六重奏曲」です。ロマンチックでセンチメンタルというよりも、ここは日本風に「せつなく」て「やるせない」といいたくなるような風情があります。すすきの揺れる野原に立って来し方をふり返ったときのような、胸がきゅんとする音の風景があります。「もののあはれ」です。

 

この曲は、ブラームスが27歳のときに書かれました。シューマンとの出会い、その妻クララへの深まる思慕、そしてシューマンの死。その失意の中で会った新しい恋人アガーテへの熱愛、婚約、そして破局。その直後に発表されたのがこのどこまでも哀しく、美しい曲です。第1番はクララに献呈され、第2番は「アガーテ六重奏曲」とも呼ばれています。ある意味で私小説的ともいえる音楽でしょう。とても太宰的ともいえるかもしれません。

 

ブラームスのこの「弦楽六重奏曲」がひろく知られるきっかけになったのは、ルイ・マル監督、ジャンヌ・モロー主演の映画『恋人たち』で、第1番の第2楽章がつかわれたことでした。不倫の物語にも、よくあう音楽なのです。この場合は、「走れエロス」でしょうか。

 

ともあれ、薄手のカーディガンでも着ようかという秋の夜長、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロが2本ずつという重層的な弦の調べに耳をかたむけるのもいいものです。

 

ベランダの鉢植えで、コスモスの花が風に揺れています。

 


 

2012.9.28