Vol. 6

ベートーヴェン/交響曲第3番(指揮ウィルヘルム・フルトヴェングラー:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団)

ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」

この連載も、もう6回目になりました。ここらでやはり、ベートーヴェンを取り上げなくてはならないでしょう。なぜなら彼は、それまで主に王侯貴族というパトロンのためにつくられていた音楽を自己の表現手段として作った最初の作曲家だったからです。その音楽は、美しい、心地よいだけのものではなく、人間の根源的な迷いや苦悩までをも掘り下げてみせました。つまり音楽を哲学し、文学したのです。しかも、こころに美しく響くものとして。

 

さて、ベートーヴェンといえばやはり交響曲です。それは9作品あり、どれもよく知られていますが、とくに奇数番がいいと言われています。私がよく聴くのは1番、3番、7番。

とくに、第3番「英雄」です。さらにいうと、第2楽章(埋葬行進曲)の重厚で、深く、大河のように滔々と流れる旋律が好きです。この曲は、民衆を率いる青年士官ナポレオンを讃える曲として作曲されました。つまりベートーヴェンは、とことんアンチ権力のひとだったのでしょう。しかし完成後、ナポレオンが皇帝に即位したという知らせを聞いて、「彼もまた俗物か」と激怒し、献呈辞が書いてあった表紙を破りすてたといわれるエピソードは有名です。

 

ベートーヴェンの交響曲のアルバムは、山ほどあります。名盤といわれるものもまた数々あります。フルトヴェングラー、トスカニーニ、ワルター、クレンペラーなどが指揮したものはもはや文化遺産です。クライバーの4番、7番は伝説。バーンスタインとかジュリーニは曲者。ガードナーの古楽器によるけれん味のない演奏も私はよく聴きます。これらのどの全集を買っても、後悔はしません。

しかし、彼の交響曲の最終到達点である第9番はやはり、フルトヴェングラーに尽きると思います。1951年7月、第2次大戦後、初めてバイロイト音楽祭が再開された初日に演奏された記念すべき実況録音です。しかしあまりに壮絶な演奏で、BGMには適していないかもしれません。襟をただし、瞑目して聴くような演奏です。

余談ですが、CDの収録時間が最長74分に定められたのは、ベートーヴェンの交響曲第9番の演奏時間がだいたい70分前後だったため、それが1枚に収められるようにという思わくからだそうです。

 

さてさて名盤だらけのベートーヴェンの交響曲ですが、迷ったあげく私は今回、フルトヴェングラーが1952年にウィーンフィルを指揮した第3番をお薦めいたします。胸の奥底に、ずしりと響く名演奏です。

 

 

2011.5.16