Vol. 8

メンデルスゾーン/ヴァイオリン協奏曲(演奏ヤッシャ・ハイフェッツ 指揮シャルル・ミュンシュ)

メンデルスゾーン&チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲

この曲は、私が生涯で最初に好きになったクラシック音楽かもしれません。

高校時代、山岳部の先輩の家で初めてこの曲をレコードで聴き、そのとろけるように美しい旋律にうっとりしたものです。

それ以来、「メンデルスゾーンを聴かせてください」と言って、私は下宿からよくその先輩の家を訪ねていきました。そのレコードのヴァイオリン奏者は、たしか巨匠ハイフェッツだったとおもいます。

 

メンデルスゾーンは1809年、ユダヤ系ドイツ人の大資産家の家庭に天才的な音楽的資質をもって生まれました。天賦の才能ということでいえば、モーツァルトに比肩するともいわれています。

彼の家庭のサロンはそのまま演奏会場となるので、子供の頃から発表の場には困らない。しかも、そのサロンにはゲーテなどの著名人が常に出入りしていて、その早熟な才能を彼らに褒め讃えられたというエピソードが残っています。つまり、銀のスプーンを1ダースくわえて生まれてきた音楽家なのです。

このうえなく恵まれた家に生まれ、若くして音楽家として成功し、幸せな結婚をし、38歳で病死したメンデルスゾーンを人生の深みを知らないと批判する輩がいますが、とんでもないことです。芸術家は貧乏をして、悪妻に悩まされ、酒に溺れ、激しい人生を送るのが正しいという意見こそステレオタイプなものの見方です。芸術家は残した作品で評価されるべきなのです。

 

さてヴァイオリン奏者にとって、もっとも華やかな舞台は協奏曲であり、わけてもベートーヴェン、メンデルスゾーン、ブラームスの3曲は、三大ヴァイオリン協奏曲と呼ばれています。これにチャイコフスキーを加えて、四大ヴァイオリン協奏曲ともいいます。

しかし、いまも世界中でもっとも親しまれているのは、やはりメンデスゾーンの作品といえるかもしれません。とくに繊細でロマンティックな第1楽章の導入部には、誰もが酔わされるのではないでしょうか。

 

セザンヌやルノワールの印象派の絵画は見るひとすべてを魅了しますが、けっして陳腐ではなく、厭きさせることはありません。見るほどに、深みが増します。この曲は、それに似ているようにおもいます。

 

 

2011.6.15