Vol. 4

モーツァルト/フィガロの結婚(指揮ゲオルグ・ショルティ:ロンドンフィルハーモニー管弦楽団)

私は、この「フィガロの結婚」というオペラを週に一度は聴きます。

第2幕で歌われる“そよ風によせる”というアリアは、映画「ショーシャンクの空の下に」でも、もっとも感動的なシーンで使われています。あの刑務所所長の部屋を受刑者の主人公が占拠して、「これが、この世でもっとも美しい音楽なんだ」と言いながら、リンチ覚悟のうえ、スピーカーで刑務所内に大音量で音楽を流すシーンです。受刑者全員を陶然とさせるあの曲です。

 

私はオペラには通じていません。オペラといえばイタリアであり、ヴェルディであり、プッチーニであり、ロッシーニでしょう。もちろん、それらの作品も私は聴きます。しかし私がもっとも頻繁に聴くのは、やはりモーツァルトの「フィガロの結婚」であり、「ドン・ジョヴァンニ」であり、「魔笛」なのです。オーストリア人であるモーツァルトのオペラです。たぶん、イタリアオペラの喜怒哀楽の激しい表現が、私には生々し過ぎるのでしょう。

オペラ通のひとから言わせたら、モーツァルトのオペラばかり聴くというのは邪道であるのかもしれませんが、好きなものは好きなのです。

でも音楽なんて、好きなものを好きに聴けばいいのではないでしょうか。

 

それ以前に、オペラというのは、とっつきにくいものだと思っている方もいるかもしれませんが、そんなことはありません。そもそもオペラのほとんどは、

「あぁ、あなたは何て美しいのでしょう」「いけません、私には夫がいます」「それは関係ない。僕は、あなたのためなら死んでもいい」「でもでも、いけません。あぁ、私・・・もうだめになってしまう。あなたのその逞しい腕がいけないんです」

という、宇野鴻一郎的世界なのです。官能の世界なのです。そういう簡単なあらすじさえ知っていたら、それでいいのです。ほとんどが、その手のタワイもない話です。そんなきわめて人間的な物語に、とてつもなく美しい音楽が付いているだけなのです。

 

そして、それを毎日、1年中BGMとして聴いているうちに、いつの間にか、その官能的な音の快楽に溺れている幸せな自分がいるのです。

 

それが、オペラの魅力です。

 

 

2011.4.8