ころばぬ先の杖(2)

ところが、去年3月に家の階段を3段ふみはずして転んだ。ちょっと左足をねじった程度だから、当座の痛みを5分ほど我慢して、そのまま予定通り買い物に出て、夕食の支度などする普段通りの生活をした。翌朝、足首から足の甲までがはれ上がっていた。3日目には、ふくらみは赤色から紫黒色に変わっている。当時私は、左眼の周辺にヘルペスが潜伏していて、ものすごい頭痛に苦しんでいた。目、耳、歯肉の痛みのために、2、3日おきに次々と専門医を回っていた。原因がわからず、どの医者も痛み止めを処方して、それがだんだん強い薬になる。夜も眠れぬ1ヶ月でボーッとしていたのだろう。その痛み止め薬が全身に効いているから足の痛みは全然感じられなかった。

 

黒ずんできた足先を見て、ホーム・ドクターに行った。「病院に行ってすぐレントゲンを撮りなさい。多分救急でギブスをつけるようになるでしょう。」マイッター!! その日から2ヶ月間のギブス。松葉杖で家の中だけを移動。8週間しても、足小指の骨はこわれたまま。「あと2、3年かけて骨が自然に接着するかもしれないし、このままで痛くなかったら、放っておくしか方法はない」「何か、ビタミンとかカルシウム剤をとらなくては?」「どうしても欲しいなら、処方箋を書きますが、そんな薬はPipi(ピピ=尿)と一緒に流れてしまって、役にもたたない。」

 

どうも初めから、へんな医者だったが、それまで2週間毎に撮ったレントゲンを見せる度に、彼の言うことは妙に正しく感じられて、私には相性が良かった。病院で買った片足だけのアメリカ製ヒール高さ5cmの船底サンダルを履き、もう一方は同じ位の高さのツッカケ式サボを見つけて、直接足底が床にあたらずに歩くようにして更に1ヶ月。全く同じ高さの靴ではないから、このままだと腰骨が曲がるかも・・・と思いながら。

 

ヘルペスの方は、検診を終えた眼科医が、左眼の眉に出てきた赤い水疱のボツボツを診て「それは、階段から落ちた時どこかにぶつけたの?」「いいえー。2日前から眉毛の中にでてきて、今朝は頭皮にもボツボツが・・・」じっと目の周囲を眺め直して「わかった!!帯状疱疹です。眼周辺神経系がウイルスにやられたのです」 医者は大げさに石鹸で手を洗いはじめた。感染しないためだ。患者の眼底の痛みの原因がわかって、うれしそうだった。だって、ここに来るのは1ヶ月で3回目「眼に異常はありません」だったのだ。

 

錠剤を7日間服用して、頭痛も赤いボツボツもすっかり消えてしまった。帯状疱疹ヘルペスは、一環の終わり。ただ、オーベルニュ地方出身の友人が電話で「信じないかも知れないけど、帯状疱疹だけに効く祈祷師が、私の田舎にいるの。私も息子も全然痛みを感じないで治ったのは彼女の祈祷なのよ。どうお? あなた次第では、頼んでみるわ」「だって、私がギブスしているのを知ってるでしょう。そんな遠くまで行けないもの」「電話でいいの。生年月日と病状を聞かれるだけよ」勿論フランスにも、聖母マリアの他に、祈祷師がいるのだ。会った事も無く、電話の遠隔操作で知らない場所で誰かが私の為に祈ってくれたわけだ。

 

足の方は長引いている。友人たちとの電話交換で、もう皆が皆、カルシウム治療をしているのを初めて知った。「あなたも、早く始めないとダメよ。カルシウム、カルシウム」と一様に言うではないか。「でも、もう遅すぎるかもね!」なんて脅かしたりする。


普通のくつを履いても良いとなった時、リューマチ専門医に相談した。放射線で腰椎や腕の骨密度を測るDXA(デキサ)検査をする。やはり、惨憺たるスカスカ骨になっているらしい。黄色、オレンジ、赤と曲線帯グラフは、赤の部分幅が広い。手遅れでも、何もしないよりはいいし、骨租しょう症となってしまったからには、進行に歯止めをかけなければ。

 

カルシウム不足で、簡単に骨にひびが入ったり骨折したりして、日常生活のリズムはストップ、周囲に迷惑もかける。本人も生活不便で気が滅入る。ころんで打ち所が悪ければ寝たきりになって、余分な弊害を背負い込む。私は今、遅ればせながら週1回1粒、FosAvanceというカルシウムやビタミンDの働きを助けるための錠剤と、朝晩2回のカルシウム・エレメント混合500mgの粉末を服用して骨老化ストップに懸命なのである。医者は、「6ヶ月毎に血液検査をして、多分あなたの場合は、6年間はこのままの治療続行になるでしょう」。ナンテ言って、私をうんざりさせてくれる。


今回の経験で知ったのは、フランス女性が閉経期以降は、ほとんど誰もがカルシウム療法の恩恵によくしているという事だった。一般的過ぎて、誰も特別話題にしないから、私などは、何も知らないでいた。毎日世話になっている「骨」を長持ちさせるべく、早めに「骨密度検査」を受けましょう。私たちの若さ、元気さのバロメーターなのです。なるべく長いこと若くいられる秘訣かもしれません。

▲私個人の不名誉なIRM結。
骨祖しょう症―グラフ赤帯の中間に四角の印で、測定された。緑帯の中に四角印があるのが望ましい。

 

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2010.3.1