Christine Lagarde クリスチーヌ・ラガルド大臣

持ち前の余裕か?大したやり手なのか?

ラガルド経済産業省大臣53歳。政治経済専門ジャーナリスト達が5年任期のサルコジー・フィヨン内閣半期決算で、手腕を発揮したと評価する政界人の位付けをした。世界不況の波でフランス経済もガタガタ。一体どうなるかと言う世評をよそに、絶えずニコニコして取るべき処置を急いだ。そのポジテイブな態度で最悪な事態を乗り切ろうとする口舌に、私はいささか白けながら脱帽した。「この大臣の本当のところはどうなっているんだ。よく平然としていられるものだ。疲れた顔さえ見せない。国民を騙すなヨ」と。

 

笑顔でいながら一切余分な事は言わない、底の知れない芯の強さに、批評好きな仏ジャーナリスト界も、彼女を好感度もある手腕政治家のトップとして選んだ。

 

とはいえ、彼女は政界「新人」の部類だ。世界で2番目の大法律事務所Baker & Mckenzieのパリ事務所に入社したのが25歳。男性90%のエリート300人余が集まる同社シカゴ本部長に選ばれた時43歳。世界中に591の関連支社がある。それから6年後、シラック大統領下のヴィルパン首相に「対外商務局長」として抜擢され政界入りをしたのが2005年。私が仕事で年に1、2度行っていた、この事務所の弁護士先生等の様子からすれば、政界に入れば先ず減俸になるだろうし、政権交代時に起こりうる身分不安定もある。40年、50年のキャリア政治家のように選挙を闘った経験もないし、政界人脈も乏しい。

政界入りした時点で既に白髪だった。髪を染める女性が90%以上を占めるフランスでは珍しく、自然にまかせた銀髪でいる。サルコジー大統領と並ぶと彼女の方が頭ひとつ上背が高い。そのせいか、かならず一歩後ろに立つ。マルセイユ在住の会社経営者が彼女の騎士だが、詳細は知られていない。双方が色恋沙汰よりも、自由に有効な時間を過ごす願望の方が強いのだろう。一国の経済政策を女の背に負って、1日24時間の予定はぎっしりつまっている。徹夜仕事も珍しくないらしい。かつての仕事仲間から世界的視野の情報を直接聞き出そうとするなら、相手国との時差も考慮してツイ夜が白む。

 

「経歴にハクをつけたいというような野心は持ったことはない。訪れた「機会」の幸せを全うしたいと思うだけ」と語る通り、決して出たがりやではない。自信とたゆまぬ努力が、彼女の現在を築いたのだろう。女53歳にして、いずこも同じ付和雷同するマスコミ界からさえも評価を得たのだから、満足だろうと察する。フランス経済世相をパニック状態にしなかったとはいえ、決して先行きが明るいわけではない。軒並み閉鎖する工場、農民・漁民・学校の先生から病院の医者・看護士まで至るところでスト騒ぎ。つまるところは経済基盤を安定させなければならない。

彼女は先を読みながら、しかも悠然とした構えだ。憎らしい程に「気」や「機」を上手くつかむ。あなたの周囲にも、こんなふうに賢い女がいるのではないだろうか? 誰にも愛想がよく、礼儀もわきまえ、実に慎重な言葉使いや行動で失点がない。だから存在感が薄いと思っていたら、あに計らんや、、、自分などより、相手の方がずっと上手であった、、、と悟らされる人。

 

これはもう余人が、努力してなしえる技ではなく、生まれ持った彼女の得点なのだろう。本当に世評を獲得できるのは、彼女である。2012年の大統領選後には、現フィヨン首相に代わる後継者との風評も高い。ヤレヤレ、彼女はアンチエイジ等と口で唱えず、ますます働く様子だ。

 

閣議中の机の下で、足先を前後に屈伸させて、ストレッチをしていたところをTV局の悪戯カメラが捉えて放映した。ご本人はビデオを見せられても少しもあわてず、他の皆と笑っていた。心に余裕がある。一生懸命ぶらない賢い女であるのが良い。

 

 

2010.1.8