アンの場合(2)

アルコールと麻薬のせいか、ポールの情緒はそのときどき著しく変化する。ある日、ポールはアンに結婚を申し込む。アンは二度と結婚はしまいと思っていたのだが、金目当てでポールと同棲したと思われるのがいやで結婚を承諾する事にした。

 

だがポールとの生活の問題は、ティーンエイジになり始めた3人の子供達の問題でもあった。ポールの長男は、学校放棄でテレビゲームに耽ったまま家に引きこもり落第を続けた。次男は、夜尿症になり精神的に落ち着きがなくなった。長女のララは、ディスコで麻薬販売の容疑で捕まった。そして、ポールは破産した。

 

彼らは住んでいた家を追われ、ポールは一層アルコールと麻薬に逃げるようになった。見かねた友人が強制的にポールを病院に入れた。医師は、ポールがこのままアルコールと麻薬を続けていたら、あと2年で廃人になると宣告した。病院の中で、麻薬の切れかかるポールは見舞いに来たアンに対して罵倒を続ける。アンは憔悴しながらも、子供達を育てるために仕事を続けていった。

 

4ヶ月後ポールは退院した。アルコールも麻薬もタバコも辞めて、今は仕事に就いている。だが、失った評判を取り戻すまでには未だ長い時間がかかりそうだ。それに、何時また何らかのきっかけで元の木阿弥になるかもしれない。ポールは入院中に自分が吐いた侮辱的な言葉を覚えていないようにもみえる。だがアンは浴びせかけられた罵倒を簡単に消しさる事が出来ないでいる。

 

「もしポールに何か起こっても、私は決して悲しまないからね」と言って、長女のララは家を出て行った。

 

「なぜ苦しみながら、傷つきながらも、一緒にいるの?」という疑問を口に出したとき、アンはそのままその場に崩れてしまうかと私は思った。

 

すると、ぽつりとアンはつぶやいた。「私は自分の仕事が大好きなの。それは人を癒す仕事なの。だからある日、ポールが元気になったら・・・そう、その時には別れようと思っているの」。そして、何も聞こえなくなった。

 

私の心の中で、Marianne Faithfull の歌う『As tears go by』 が響いていた。

 

夕方に 子供達が笑いながら遊んでいる姿を 私は座って見ているのに

笑っている顔が見えるのに その笑いは私の為ではない

私は座って見つめるだけ 涙が滴り落ちる

 

私には何でも買えるお金があるけど

子供達の歌声を聴きたくても

私には雨のしずくが地面に落ちる音しか聴こえない

私は座って見つめるだけ 涙が滴り落ちるように

 

夕方に 子供達が笑いながら遊んでいる姿を 私は座って見ているのに

惰性から抜け出せない 変わらなければと考える

私は座って見つめるだけ 涙が滴り落ちる

 

It is the evening of the day

I sit and watch the children play

Smiling faces I can see

But not for me

I sit and watch

As tears go by

 

My riches cant buy everything

I want to hear the children sing

All I hear is the sound

Of rain falling on the ground

I sit and watch

As tears go by

 

It is the evening of the day

I sit and watch the children play

Doin things I used to do

They think are new

I sit and watch

 

As tears go by

 

AS TEARS GO BY - Marianne Faithfull(You Tube)

 

2009.8.21