マイスの場合(2)

 マイスはぽっかり開いた家の中の空間にザビエルを割り込ませた。ザビエルは彼女の心の“模様替え”を手伝った。だが、もう一人残された長女のアナはザビエルの介入で自分の行き場を失ってしまった。アナは夜遊びを始め、家に寄り付かなくなった。

 

 そしてある日、16歳の誕生日を迎える時アナは母親に自分が妊娠したことを告げる。

 3つ目の積み木も崩れてしまった。中絶をするには遅すぎた。アナは高校2年生で娘のエマを産んだ。エマの父親は32歳のモロッコ人だった。

アナはエマの父親と一緒に新居を構え、高校に通いながらエマを育てていたが、学校と育児と家事の両立生活は16歳のアナには続けられなかった。エマの父親との関係はひどく悪化する。そしてアナはエマを連れてマイスのところに逃げ戻ってきてしまった。マイスは自分の恋にかまけて娘のアナの気持ちを汲んでいなかった自分を責めた。

 

 マイスはつらい思い出のある家を売りに出す。ザビエルは3年越しでやっと離婚を成立させた。そして二人で新しいアパートを買い、結婚をすることにした。友人の家のリビングで、娘のアナと孫のエマ、そして何人かの友達が出席して、フィンランド人の牧師による簡素な挙式をした。

 あまりにもめまぐるしく続いた不幸な日々をどうやって克服したの?という質問に、彼女は大きなため息をひとつついたあと「私は許すことを覚えたの。ペカを天国に連れて行ってしまった神にも。私の元を去っていったジョゼフにも。そして、アナの苦しみを理解しなかった私自身に対しても。許すことで新しい世界が開けることを望み、許すことで生きる力を生み出したの」

 

 娘のアナは今20歳。高校を出た後就職をして、今は一人で子供を養育している。アナの友達たちは大学に進学して学生気分に浸っている中、彼女には子供が居て仕事が有り、夜遊びも思うように出来ない。アナが知り合った新しいボーイフレンド達は彼女に子供が居る事を知ると急に尻込みをして彼女を避けるようになる。アナのこれから先の人生はそう簡単なものではないだろう。マイスは「厳しいようだけれど、アナは自分の力で自分の人生を切り拓いて行ってほしい」と言う。

 

 今年の4月、ザビエルの長男が結婚をした。結婚式にはザビエルの前妻で旧友のミッシェルがいた。ミッシェルもまた、新しいパートナーと生活を始めていた。パーティーが終わりかけたころ、ミッシェルは気難しい顔をしながらマイスに近寄りそっと声をかけた。

 

「ねえ。元気なの?そろそろ仲直りしない?」。

 

 二人は目を見詰めあって、同時にプッと吹き出した。そして気が付くと、二人でしっかり抱き合って笑っていた。笑いながらも二人の頬には涙のしずくが流れていた。

 

 

2009.7.10