マリアンヌの場合(1)

2005年5月、日曜の朝。アランは、サイクリング自転車に荷物を積んだ。見送るのはマリアンヌと彼女の2人の娘、そしてアランの3人の息子と娘達。マリアンヌはアランに「BONNE CHANCE!(グッド ラック!)」と声をかけ、その日アランは5000キロの北海一周、自転車の一人旅に出かけた。

 

ちょうど今から10年前。11歳と8歳の娘を持つマリアンヌは、学生結婚をしてから20年間連れそったフィリップと離婚する事を決意した。別れる前日の夜、娘達を連れてアパートに引っ越す準備をしていたマリアンヌは、20年間暮らした家のワイン倉から一番上等なワインを取り出しフィリップと二人だけで「BONNE CHANCE!」と言いながら最後の乾杯をした。

マリアンヌは、いま50歳。この2、3年前から急に髪をのばして、花柄のドレスやレースのついたブラウスなどフェミニンな服装を装おっていた。それが50歳の誕生日を迎えたとたん、待ってましたとばかりに様々な更年期の兆候が現れた。で、服装がまた変わった。「今年のバーゲンで久しぶりにベルボトムのジーンズと華やかなTシャツを買ったの、今度は髪も思いっきりショートにするわ」と言っている。

「女でなくなる事が来るのが、恐かったのだと思う。だから、ひたすら自分のルッスクを女性らしくしようと努力していたと思うの。でもこれも自然の成り行き。その時が来たら自分の心の中もそれなりに変化したみたい。そして、私はやっぱり女に生まれてよかったと思うようになった」と明るく話す彼女の声は落着きと優しさに満ちている。

 

昇進に昇進が続き、すばらしいキャリアで男勝りに企業で働いていた彼女は、離婚と同時に今までの会社勤めを辞めて弁護士の資格を取る事を決める。小さな子供を2人抱えていきなり弁護士の卵として一人で働く事は経済的に大きな打撃があった。彼女は「たしかに不安はあったが、私の人生の選択に対しての疑問は無かった」という。その大きな決定を促した要因は二人目の娘が生まれたときに始めたメディテーションとヨガ。自分自身を見つめるメディテーションを続ける事で、自分の生き方を何度も見つめ直すようになったという。「だから私の人生は決して衝動的な行いではなく、ほとんどが自分で何度も何度も考え直したうえで決めているのよ。ひとつだけをのぞいてね」と茶色の瞳が笑う。

 

アパート暮らしを始めて1年後。12歳と9歳になった娘達は、上の階に引っ越して来た子供達と仲良くなる。13歳の子供を筆頭に10歳と8歳の3人の子供を持つアランが移って来たのだ。お隣り同士としての自然なお付きあいだったのだが、あっという間にマリアンヌはアランと恋に落ちる。それも、「嵐に打たれたような恋だった」と彼女は言う。そして、知り合った6ヶ月後に2つの家族は一緒に暮らす事を決める。だが、ティーンエイジという難しい年頃に入る子供達が5人もいる。

 

そして、お互いの仕事も凄く忙しい。そこで今までの経験を生かしてお隣り同士の家を2軒買い、隣り合う壁をぶち抜いてドアを作る事にした。年代も学校も違う子供達は登校時間も違う。今までとおりに家族と一緒に各々の家で朝を迎え、平日の夜は気が向けば2つの家族が全員一緒に。

 

週末は7人全員でお食事。そしてアランかマリアンヌの仕事の忙しい時には、どちらかが子供達全員の面倒を見る。2軒の家を自由に行き来する家族だけれど、2軒の家の家計簿は別々。アランが週末に彼の友達を呼ぶ時は彼の家で彼が夕食を作り、マリアンヌがデザートを作って参上する。そして月に一度は二人だけの週末の時間も作る。別に決まり事を作った訳ではないけれど、共同生活をしながらお互いの家族の自由と調和を重んじていたら自然とこのような生活様式になったのだと言う。

 

マリアンヌの場合(2)につづく

 

 

2009.3.12