マリアンヌの場合(2)

アランは若い時に実現できなかった一人旅の夢を4年前の47歳になった誕生日に実行に移し、3ヶ月かけて北海を自転車で周遊した。そして昨年は、4ヶ月かけてカナダ自転車横断7000キロの一人旅に出た。マリアンヌもアランの一人旅の一部に合流して、二人だけのバカンスを楽しんだ。

 

アランを一人旅に送り出し、マリアンヌが子供達全員の面倒を見るなんて、あなたは彼の自分勝手な夢の犠牲になってはいないの? という質問に、「彼は旅の間、毎日私に手紙を書いてくれるの。それも熱烈なラブレターなのよ。彼は私を一人の女性としてとても愛してくれているの。アランの一人旅は、わたしにとってのメディテーションと同じで自分を見詰めるための作業のひとつなのだと思う。私たちの関係は、二人で話し合った上で第一に自由を尊重する事にした。そして自由である為には愛と信頼と責任が必要なの」

 

子供達も大きくなり、すでに3人の子供達は巣立って行った。 これからは二人の為の家を造ろうと、今は大きな古い農家の改装を2人でこつこつとやっている。そこには、5人の子供達や彼らの将来の家族が集まることができる沢山の部屋と広いリビングルームがある。しかしその大きな屋根の下には、2つの家族を分けるドアーがない。

 

マリアンヌは、今年新しくふたつの仕事を始めたばかりだ。18年間続けたヨガの教員資格を取り、今年からヨガの先生としてデビューする。自分の体をコントロールする事は自分の心のコントロールにもなると彼女はいう。それを具体的に実践するのだ。

 

そしてもうひとつは、10年間弁護士として仕事をしてきたことから学んだ新しい道。離婚裁判で依頼人の経済的利益や子供の養育権を守るためだけに争っていくという今までの弁護士の仕事から、「争い合っている人たちの調停をする」という家庭調停人の仕事を始める事にしたこと。たとえ裁判で養育権を獲得しても、その獲得した本人が現実的に子供の養育をする時間や経済的余裕がない 場合には裁判に勝ったとしても意味が無い。別れるカップルが具体的に話し合って、様々な問題をその別れた家族に出来る実現可能な方向に調整する事こそが本来離婚裁判に必要な仕事なのではないか。そういう思いから新たに家庭調停人の資格を取り、今彼女はその仕事に従事している。一般的な弁護士の仕事に比べて、この家庭調停人の仕事は時間もかかり報酬も少ない。だがこの家庭調停人の仕事をする事で、別れるカップルが現実を見つめてお互いに話し合う事は労力やお金を遣い、そして傷のなすり合いをする離婚裁判よりも何倍も有益で、しかも傷ついている依頼人達や子供達を守る事が出来るのではないかというのが彼女の考えだ。

 

マリアンヌは依頼人達に、決して自分の過去は話さない。

 

「離婚する人たちは、私もそうだったけれど慣れ切った生活を変える事を恐れているのだと思う。そこから抜け出す事はエネルギーがいるけれど、でもそれを決めるのは自分自身でしかないの。悩んで苦しんでいる人に私は言うの。もしもあなたが、あなた自身の一番の親友だったら、あなたにどんなアドバイスをするかしらって」

 

・・・・BONNE CHANCE!

 

2009.3.20