マルティンの場合(2)
マルティンにとって、人生の発明のヒントは子供達だ。子育ては、彼女にとって「人生の一番大切な仕事」だと思っている。そしてこの子育ては血のつながりよりも、共に生活をして行く上でのプロセスが重要なのだという。
子供達一人一人の個性に合った人生を彼らが自分で発明する事。そしてそれをお手伝いするのが親である私たちの仕事なのだと言う。この仕事には素敵なご褒美があって、それは沢山の愛と子供達の驚く様な想像力というお返しがもらえる事だと言う。
そしてこの想像力こそがマメモの創作の原動力だ。上の2人が大きくなった頃は、マメモのテーマも子供の成長に合わせて幼児から小学校高学年向けへと変わっていった。その後、上の子供達が大きくなり、小さな二人の養子が家族に加わって、マメモはまたまた小さな子供達の視点へと変わっていった。マメモは彼女の子供達と一緒に成長して、様々な年代や時代を生きてきたのだ。
今年、マルティンは家族をもって30年目を迎える。4人の子供達は写真家、役者、演出家、ダンスと声楽の演者、と一人一人個性的に自分の人生の発明をしているようだ。そしてマルティンの創造した子供マメモも、今年30歳になった。マメモも時代と共に変化していった。
30年前には考えられなかったほど家族という絆が多様化している。離婚した両親やシングルマザーの子供、海外からの養子縁組や親の再婚による義理の親兄弟との関係など。 マメモの新しいショーは『J’arrive(今、行くよ)』。離婚した両親の家を、カバンを持って行ったり来たりする今の子供達のお話だ。
マメモのアニメは世界20カ国で放映されている。たった3分間のストーリー。そこには子供達の目から見た家族、子供達から見た大人の不可解さ、子供達が感じるふつうの日常の幸せが表現されている。
マメモは子供達の目から見た人生の発明なのではないだろうか? そしてこれを見る大人達がなんだか懐かしい気持ちになるのは、このアニメが自分自身の子供時代を思い出させてくれるからなのではないだろうか?
今、マメモのミュージカル・アニメーションの舞台は、長女のセリーヌとそのパートナーがマルティンとオリビエの後を引き継いで演奏活動している。
この秋に養女の末娘が独立してスペインに移住し、マルティンと2人の夫の3人だけの生活が始まる。マルティンは55歳。子育てが終わり、やっとこれから自分の時間を持てるようになる。
「これからは今までの様にいくつもの事を同時にするのではなく、ペースダウンをして一つ一つの事に時間をかけてゆっくりやって行きたい」と語る。
「それと、長女に子供が生まれたの。今度は孫達が私の新しい人生の発明の源になってくれると思うの」マルティンの人生の発明は、まだまだ続きそうだ。