フランスのあちこちで、ブルカ(スカーフ)をかぶっている女性を見かける。

日本人にとっては、一時的でつい忘れがちなニュースと思われるテロだが、フランスでは今もって警戒が解かれてはいない。スーパー、デパート、ショッピングセンター、美術館などの入り口では荷物検査があいかわらず続いているし、主要駅舎、観光客が集まるエッフェル塔周辺なども、若い兵士が3人1組くらいで、迷彩軍服に銃をかまえて、見回りをしている。

イスラム過激派のせいで、フランス市民は、第二第三世代を含めて増加し続けるイスラム系人口への漠然とした不安を抱かせられているように思える。

(現在の仏イスラム系:450~500万人、人口比で8~10%が、アルジェリア、モロッコ、チュニジアなどやサハラ砂漠以南のアフリカ系移民)

人口の占める割合で、当然女性のファッションも影響を受ける。フランスには10種ほどのイスラム宗派が存在して、80年代以降、「エジプト同胞団系仏連盟」が、女性にベールの着用をすすめ、モスクに誘い、自らのアイデンティーを問うべくイスラム化を進めたことで、徐々にスカーフで髪を隠すのがイスラム系女性の間で “流行” のようになってきた。 女性たちが髪だけを隠すか、頭から足先まで全身を覆うかは、国柄によってちがったり、その呼称も異なる。“2016-17 秋冬パリコレクション”で、伝統的アラブ衣装まがいのファッションを何点か出したドルチェ&ガッバーナ、H&Mアトリエなどが、即日だされた文化省家族担当の女性大臣のコメントにたじろいだ。「ブルカは、女性の身体をつつみ、男女差別や女権の自由を奪うしるしの様なもので、パリコレに大手を振って登場するのは賛成しかねる」。

アラブのお金持ちの買い物の仕方はハンパではないから、有閑マダムを満足させるようなデザイン画をイメージするファッション・クリエイターの気持ちも分からないではない。

フランスでは、2011年4月から公的機関(学校 • 役所 • 病院 • 郵便局等)で働く人のベール類着用は禁止する法律が施行されるようになっている。2010年をピークに、どこでも女の子は中 • 高校生以上の老若を問わず髪をスカーフで隠す女性達が闊歩して、パリ周辺にこんなにイスラム系の人がいるのかと驚かされた記憶がある。学校へもスカーフ、体操時間の女子水泳は拒否、病院では女医の診察しか受けられない。

IS国のせいで、イスラム系全般に対する市民の複雑な感情もあって、最近はひと昔前のように目立って誇示する風ではなくなってきた。 余分な災いのもとは誰でも避けて通ろうとするからだろうか?流行という一過性のものだったのか?イランの原理主義者のように、一年中、上から下まで、真っ黒なブルカでは、着る楽しみや行動は制限されるだろう。サウジアラビアのように、女に高等教育は不必要、車の運転も御法度では、女は子供を産むだけの存在でうれしくはない。

ヨーロッパ全土が難民問題で頭をかかえているのはご存知と思うが、イスラム教国シリアの難民女性たちは一様に皆スカーフをかぶっている。シリアの戦争難民だけでなく、どさくさにまぎれてパキスタン、イラク、アルジェリア、ひいては、偽パスポートで難民をよそおってギリシャの島から、陸ルートでIS国に潜入して戦士たろうとする者。毎日今でも200人以上で、つい最近まで本当に毎日800〜1000人以上が船でやってきた。EU諸国は その数の多さにネを上げている。自国市民の経済文化への影響を盾に、国境を閉鎖して、高い鉄フェンスと警備隊を配置して、自国への侵入を遮断する陸路通路マセドニア、ポーランド、ハンガリー、オーストリアなど、「人道」だけでは処理できない面がある。難民を受け入れれば、1〜2年間の衣食住の手当、言葉を教える、仕事はどうするのか?ヨーロッパの多くが、自国民の失業者対策に悩み、政府はあの手、この手をつかっても改善にはほど遠いからだ。

悩んだ末にEUは、トルコにお金を払って、難民受け入れを承知させた。トルコはシリア戦争難民以外は、出身国に送還してしまうのだそうだ。難民は現在の独裁政権トルコ行きを嫌って、悶着が起きているが、ヨーロッパ各国は見てみぬふりを決め込んでいる。

今、フランスには英国に渡りたい難民がユーロトンネルのある北の国境沿いカレー市に、子供200人を含めて3000人弱がキャンプ生活をしている。英国は難民受け入れを拒否しているし、ボランティアで難民に炊き出しをしたり、衣服を集めたりする人々のいる一方で、大半のカレー市民は不衛生で金を持たず言葉も通じ合わず、市街の中心近くまではみだしてきた一大集団キャンプに不安をかくせない。

移民・難民への保護が薄いフランスは住み易い国ではないとされていて、どんなことをしてでも英国行きを画して、国境検問のため列をつくって待つ輸送トラックの後扉をこじあけて乗り込み、荷物に隠れてトンネルを通過するために命を削っている。トンネルを抜ければ、そこはイギリスなのだ。

このところ、フランスは又予期されるテロ、難民、労働法改定反対全国デモと毎日が局地的市民戦争のような緊張で、落ち着けない日常が続いている。

 

2016.4.28