信じる者のメノポーズ対処法

私が20年前に初めてベルギーに来た時に早々に風邪を引いた。「郷に入っては郷に従え」で私は病気になった時はその国の細菌に効くその国の薬を飲むべし、と思っている。その時に薬局で勧められたのがホメオパシーという療法だった。 

 

記号のような名前がついたプラスチックの小さな四角い薬の容器が並んでいる。薬局の引き出しには、少なく見ても500種はあろうと思うホメオパシーの薬が並んでいる。蓋をひねると一つずつポロリ、と小さな白い直径3ミリ大の砂糖粒が出てくる。どの粒も同じ物に見える。その小さな粒を手のひらに受け取ってはいけない、蓋の中に落ちた粒をそのまま口に運ぶ。飲み込んではいけない。舌の上でゆっくりと溶かして体内に吸収する。どれも甘い砂糖の味がする。

 

この粒を処方箋に従い何種類かを順番通りに一日数回舐める。ミント系の歯磨きは薬を吸収する舌に影響を与え、この治療効果の妨げになるので良くないとのことで子供用のイチゴ味の歯磨き粉を買った。4、5日薬を試してみた。なんだか治ったのか治らないのか良くわからないうちに私の喉の痛みが無くなった。

この治療法は、同種療法と呼ばれる。「毒をもって毒を制する」、つまり体の悪いところの根源を見つけてそれに相反する物質を服用することでその反作用の原理で治療をするのだという。18世紀にドイツで発祥したしたもので、ベルギーの薬局では何処でも販売している。「風邪にかかったかな?」と思った時は、まずはこれから服用してみるのが一般的なこちらの治療法のようだ。

 

痛み止めのアルニカという名前のホメオパシーの薬は、子供が転んでたんこぶが出来た時には「ハイどうぞ」とばかりに登場する。この薬の粒は砂糖の様に甘いので子供はこれを舐めて安心するのか?不思議とそれで泣き止んでしまう。まるで「おまじない」のような薬なので、わが家の娘が小さい時にはこの薬が重宝した。

 

友人の弁護士マリアンヌはこのホメオパシー療法でメノポースはもちろん、それ以外のほとんどの病気を克服したと言っている。そこで彼女に紹介されたホメオパシーの専門医に会いに行ってみた。

 

西洋医学の医師でもありホメオパシーの専門家でもあるという50代の女医さんだった。シンプルな診療室に入った。聴診器の問診も血圧も測らない。その代わりに医師は私の家族構成や家族の病気、食べ物の好き嫌い、仕事、趣味、はたまた夢の話などなど、延々と1時間、いろいろな事を聞き出す。話した事をメモにとる。まるで心理学者と話しているような感じだ。

 

医者が言うには、更年期障害で現れる不眠や発汗、疲れや不安、記憶力の損失などの症状はホルモンバランスの崩れが原因ではない。何故なら、更年期になってもこのような症状が全くでない人もいるのだから。それよりも更年期になって今まで潜在していた悪い部分がホルモンのバランスの崩れでより強調され各種の症状として出るだけだと言う。そのため西洋医学の様に不足したホルモンを補うのではなく、悪い部分の根元的な治療をホメオパシーにて治療するのだという。

 

そして、4つのホメオパシー薬の処方箋を帰りがけにもらった。毎日きちんと薬の飲む時間と順番を守る様こと。この治療は体の根元を改善する薬なので治療に時間がかかるかもしれない。薬を服用して3週間経ったら電話をする様に、そして今後は電話での遠隔治療をする、と医者から言われた。

 

なんだか狐につままれたような気分で診療所を出た私は、どうしてもその足でそのまま薬局に行きホメオパシーの薬を買う気がせず、未だに処方箋を家の引き出しにしまったままになっている。それと言うのも、後でインターネットでホメオパシーの治療について調べたところ「現在この治療法の信憑性が疑われている」と書かれていた。

 

でもこの治療法で心身ともに安定しているマリアンヌを見ればこの治療法の信憑性を疑がっている私が間違えているのかもしれない。「信じる者は救われる」と言うが、治療する自分自身が納得出来なければ、この砂糖粒のように甘いホメオパシーの薬が私にとって良薬になり得るのか? もしかして、私には良薬は甘いのではなく、苦い方が効くのかもしれない。

 

ベルギーマダムの自由な生き方便り「マリアンヌの場合」もご覧下さい。

 

 

2011.4.27