daybreak

後期メノポにもなると、そろそろ還暦以降の過ごし方も気になる。赤い帽子をかぶって赤ちゃんになるんだもの。何だって、いちから始められる。これからは、本当にやりたいことだけをやっていきたい。最初に生まれた時は歩き方や、食べ方、話し方・・・たくさん学習することがあった。生まれ変わる私は、幸いなことに歩くことも、上手く食べることも、取りあえず日本語だけは話すことも出来る。すぐにでも、好きなことをスタートできる。そう考えると楽しくなる。

 

しかし60になったら急にいろいろなことに興味を持ち、早速活動を始められるわけでもないだろう。そう考えて、私は50代を、生まれ変わるための助走の時期と位置づけてきた。悲しいかな、最初に生まれた時との決定的違いは、死に向かうということだ。何もかも、抗加齢 - アンチエイジングを意識しないと、坂道を転がり落ちてしまう。これからの人生は体力が必要。50なかばで、肉体改造とばかりにダンスを始めた。できれば、頭も体もやわらかくして還暦を迎えたい。死ぬ前に後悔しないために、中途半端で投げ出して気にかかっていることも再開したい。                

3年程前に、銀座のギャラリーでディレクターを務める親しい知人に、グループ展の参加を勧められた。100人の作家が小さい作品を並べるという。仕事以外で絵を描いたりモノを作るということは、もう20年以上もやっていなかった。しかし、これこそが私がやりたいことのひとつなのだ。作品は30センチメートル以内というので、それならと参加してみることにした。これをきっかけに、モノ作りを再開したい、という思いが強くあった。だが、悲しいことに、ずっと描いていなかった手は思ったようには動かず、気持ちを表現することが難しい。

 

今年は楕円形の紙を貼り合わせた有機的な立体の表面を、色彩で分割してみた。テーマは「daybreak-夜明」と「nightfall-日暮」。「夜明」は闇をやぶって起き上がる朝の光を。「日暮」はゆっくりと眠りにつこうと落ちてゆく空を。滑らかな曲線のフォルムに美しく表現するつもりだった。2枚のボール紙をイレギュラーな楕円に切り取り、少しずらして貼りすすむにつれ、楕円はふくらみを帯びてくる。今回は「夜明」と「日暮」。対照的なイメージを持って決めたテーマなのに、イザ表現しようとすると、両方同じような色なんですネ。試行錯誤の結果、「夜明」は黒い空がやぶれて朝日が降りそそぎ、やがて白い光で満たされる様子を、黒と白を加えたパステルカラーで配色した。「日暮」は青い空が夕焼けと共にだんだん低くなり、青がどんどん濃くなっていく様子を紺色と青それに淡いブルーと、ピンクで配色した。プリントアウトした配色を、ボール紙の立体に貼っていく。こういう工作物は出来上がりが不細工だとみっともないし、意図したことが伝わりにくい。ことに、2枚に紙を貼り合わせたエッジがピシッとしているとキレイなのだが・・・

紙をだましだまし少しずつ貼り合わせて、でき上がった手のひらサイズの立体は、やや不満は残るもののどうにか形になった。

 

時間を見つけながらの何日間に渡る作業は、結局、搬入前日の徹夜で終わった。窓の外には朝の薄い光が広がって、本物の "daybreak" がやってきた。次の作品はもっと良いものを考えたい。こうして、新しい人生に、上手く滑り込んでいきたい。

 

2010.12.22