正しいストレス

今年もベリーダンスの発表会の季節がやってきた。今年で4回目のステージになる。初めての発表会に比べれば、それなりの余裕もでてきたけれど、別の課題も山積みだ。

 

最初のステージは初級クラスの時だった。2回目と3回目は中級クラスの時。いずれもフリを覚えるのに苦労したし、ベールなどの小物の使い方にも手こずった。フォーメーションを合わせるのも大変だった。

 

それが今度は上級クラスでの出演。3年間在籍した中級クラスで雰囲気にもまわりの人にも慣れすぎて、少し刺激が欲しくなり上級に移籍した。前からやってみたかったダンスが課題曲になっていたことも魅力のひとつだった。いつも、石橋を叩いて、叩いて、叩き割って渡れない私は、いつでも中級クラスに逃げ帰れるように、春から夏までの3ヶ月間は中級クラスと掛け持ちで受講した。そして橋が割れる前に、夏からは思い切って上級クラス1本に絞ってレッスンしてきた。

 

体の各パーツの動きは、入門したての頃に比べればそれなりに動くようになっているが、2ヶ所、3ヶ所を同時に動かすのはやっぱり難しい。夏から習い始めた曲は「ドラムソロ」といって、メロディーがなく、太鼓のリズムだけで構成されている。よーく聞くとベースになるリズムが刻まれているが、かぶさるように装飾的な音が変則的に幾重にも重なる。そして、アラブ音楽の特徴ともいえる、たびたびの変調。iPodに入れて持ち歩く曲は、何度聞いてもリズムが取れない。その取れないリズムに合わせて、ジルというフィンガーシンバルをたたき続ける。左手でベースのリズムをたたきながら、右手は装飾的な音を打つ。まず、右手と左手が別々に動かない。どうしても連動してしまう。左手だけ「タン・カタン・カタン・カ・カ・カ・カ・カ」。今度は右手で「タンタ・タンタ・タンタ・タ・タ・タ・」。歌いながら両手で「タンタカタンタカタンタカタカタカタカ」。ウ〜ン。お年寄りのボケ防止体操みたい。実際、最初はその程度のスピードでしか出来なかった。どこへ行っても気がつくとエアージル。頭はジルでいっぱい。それを当然、踊りながらするわけで。

夏に「ドラムソロ」の練習が始まってすぐに、上級に上がったことを後悔した。とてもついていけない。ジルに集中すると体が動かない。踊りのことを考えるとジルが打てない。ようやくジルをたたきながらステップが踏めるようになっても肩が動かない。腕をおろしていれば回る胸も、腕を頭の上に上げてはロックがかかったように動かない。

 

毎週金曜日の練習がちょっと苦しくなってきた。前はあんなに楽しくて、発表会の衣装を考えるのも楽しみのひとつだったのに。今は衣装のことなど気にする暇もない。いざとなれば発表会ではジルにフエルトを貼付けて音が出ないようにすればいいと、すっかりマイナス思考。

 

そんなことを繰り返しながら冬になった。年が明けてすぐに照明合わせがあり、衣装を着けて照明スタッフの前で踊った。衣装は孔雀をイメージして、グリーンとブルーのスカートを重ね、孔雀の羽のカチューシャとピアスをつけることにした。「これは練習」と自分に言い聞かせ、気を楽にしてどうにか照明合わせをクリアーした。自主練も加わり、週2回の練習になった。練習を繰り返すうちに、気がつくとマズいながらもジルをたたきながら踊ることができるようになっていたし、変調にもついていけるようになった。発表会まであとわずか。細かい動きを修正する段階にこぎつけた。どうでも良いと思っていた衣装だが、ちょっと地味だった孔雀のカチューシャにネットで買った孔雀の羽を何枚も貼って、イメージに近づこうとしている。「ドラムソロ」を習い始めた時に諦めてしまえば、今、孔雀になることはなかった。

 

夏からずっと続いていたプレッシャーとストレスは、私を少しだけステップアップしてくれたようだ。絶体絶命のストレスは受け続ければ病気にだってなってしまうだろう。そんなふうに払いのけられないストレスは負のストレス。人間を痛めつける。そこから抜け出すことができれば、そのストレスは正になり人間を成長させる。負のままで終わってしまうか、正になるかは、ストレスの性質と大きさ、その人の性格の3つの要素があるだろう。負のままで終わるストレスからは逃げる方法を捜した方が良い。正になるであろうストレスは、アンチエイジングには必要不可欠。何かを成し遂げた喜びは、きっと昨日より若々しい笑顔を鏡の中に用意してくれるだろう。

 

 

2013.1.30