すてきなお婆さんになるために

街を歩けば、元気で若々しい高齢者の方々が大勢いらっしゃることに嫌でも気づかされる今日この頃である。現在の日本女性の平均寿命は八十五歳くらいだと記憶しているが、今後この平均寿命は九十歳に限りなく近づいていくことは間違いないだろう。日本女性は食生活をはじめとして、もともとアンチエイジングな暮しぶりが身についているのかもしれない。寿命を九十歳として考えると、五十代の私たちにはこれから三十年以上の人生が残されているわけだ。これから先の自分は健康でいられるか、病身になるのかも分からないが、たとえ病身になったとしても、周りの人たちに可愛がってもらえるようなすてきなお婆さんになるのが、今後の私の目標なのだ。

 

昨年から始めた地域のボランティア仲間のTさんは七十歳。小柄でコケティッシュな風貌からは六十代にしか見えない。六年前に両親と夫をたて続けに看取った直後に彼女自身が大病を患い、その完治後はボランティアに精を出している。彼女の天真爛漫な明るさが私は大好きだ。歌舞伎や舞台が好きで、時間をつくっては、あちらこちらと脚を運んでいるようだ。その話題の豊富さや、話術の楽しさは若いスタッフたちも感心するほどだ。人情味に溢れながらも、プライバシーは侵さないというきっぱりとした態度は、さすがに都会のお嬢さん育ちだからこそ成せる技なのか。私もなんとかその技を身につけたいと思っている。彼女のような、皆に好かれる可愛らしいお婆さんになりたいものだ。

 

温かい下着

そしてもう一人、最近知り合ったすてきな高齢者の方がいる。地域の高齢者センターの八十代の御利用者さんだ。若い頃は銀座でクラブをやっていたというKさんはヨーロッパマダムのような風格があり、スラリとした長身に、セミロングの自然な白髪を一本の髪留めでアップにまとめている。手がかからないようにと髪を短く切っている高齢者の方が多い中、セミロングの彼女は珍しい存在だ。先日、入浴の後で髪を乾かしている彼女に、一緒に来ていた友人の方々が口ぐちに「髪、切りなさいよ、楽だから」と言っていたが、彼女は知らんふり。Kさんは余計なことは喋らないのだ。いつもクールなKさんだが、運気アップの真っ赤な下着を穿くような茶目っけもある。私もKさんのカッコよさにあやかろうと、赤いストライプの下着を買ってしまった。 

 

そして、なんと言っても歌が上手いのである。低音のしゃがれ声で彼女が歌う「蘇州夜曲」は最高である。あんまりすてきなので、歌っているKさんの隣りに行って聴いていると、マイクを私に渡して一緒に歌ってくれた。楽そうに椅子に腰かけて歌っているのに、声量があり声が響くのである。その理由は、昔、詩吟をやっていたからだと後日教えてくれた。なるほどね、やはり、昔の人間は基礎が違うのだ。

 

TさんやKさんのような人生の大先輩の生き方を見習って、少しずつ少しずつ、すてきなお婆さんになるための練習をしていこうと思っている。あせることはないのです。まだ、三十年もあるのですからね。

 

2011.2.14