命をつくる

「お薬の調合は、指示された数量を正確に配合することが大切でありますが、料理の場合はそれだけでは不充分で、みなさんがご自身の舌で味わい、確かめられた上で、調味料の増減をはかる---そこに『お加減』という言葉があるのです」

 

一昨日は実家に帰った。普段誰も入らない部屋の本棚をあけると、大昔に買い求めた
「NHKきょうの料理 煮たきもの 増補版 辻嘉一」をみつけた。上記は「煮たきものの心得」のなかの「命をつくる---お台所のおつとめ」の一節だ。

 

この本は、どの料理のレシピの書き出しも、素材の良い点と用いられ方の歴史、それを育む日本の自然への賛辞から始まる。当時まだ高校生だった私は、まだ見ぬ京野菜やめずらしい魚へのあこがれ一杯で一生懸命読んだものだった。

 

その本にまつわる思い出と言えば、「若鶏のやわらか煮くだごぼう」を作って父に食べて
もらったところ「なんだか貧乏くさい」という惨憺たる評価をもらったというくらいなものだが、当時穴のあくほど眺め、材料が手に入るものに限られてはいたが、あれもこれも作ってみたことが思い出される。

 

ぱらぱらと読み直してみると、私の食べ物に対する哲学のようなものは、この本の受け売りなのだと思わずにはいられない。20歳前の読書はオソロシイものだと改めて思った次第。

 

おかげで今でも、作ろうと思った料理のために買い物をし、庖丁を研ぎ、気持ちをピッと
させて食べ物を作る楽しさはいつも身近にある。心を落ちつけ、「おいしくするからね」と材料に向き合うことがどれほど快いか。新鮮な野菜や魚に触ることがとても嬉しい。

 

いつも思うのだ。アンチエイジングの大部分は、日々の食事で何とかなってしまうのではないかと。おいしいものを作ろうと献立を考えることはそれだけでストレスを取り去るし、作っている間はどうしたら美味しくなるか、だけを考えていられる。疲れている時はおしなべて味が濃くなりがちで、それは金曜日の夜に起こりがちだ。(ということもわかる)

 

出来上がったものの味が、「わたしは最近つまらないのです」と訴えていたり、「幸せです」と言ったりする。(電波のような文章になってきたぜ。何言ってるかわかっていただけるだろうか。

料理には作り手の気分が込められる。
料理には性格が出る。
ぐちっぽい味というのもある。
だらしのない気分の日のおにぎりは、だらしのない味がするのだ。
鬱の人口が多くなっている、というニュースがあった。
中には更年期鬱も含まれているんだろうな、と思う。
気持ちがふさぐ。
鬱っぽくなったら、まず乱れるのが睡眠と食事だろう。

 

励ますよりも、なにか温かいものをつくってあげたい。たとえば湯豆腐がゆらっとしたところをすくって、どうぞと言いたい。大丈夫だよ、というよりも海や山や太陽のもとですくすく育った素材をおいしくカラダに入れることを、したいと思う。

 

 

2010.1.18