NANA

風邪気味の金曜日の深夜、ソファーにもたれながら、眠いわけではないがテレビを消す元気もなく、BSのどこかのチャネルが画像を流し続けているのを眺めていた。気づくとある映画が始まっていた。少し前の映画のようだ。女優の宮崎あおいと中島美嘉が2人のNANAという女性を演じている。冒頭、映画としての特別な演出は感じられない。しかしどうにもリアルである

http://contents.innolife.net/news/list.php?ai_id=63971
http://contents.innolife.net/news/list.php?ai_id=63971

宮崎あおいが演じる「奈々」は、どこにでもいる普通の田舎のお嬢さま20歳。中島美嘉が演じる「ナナ」は、ヤンキーな感じのこれまたロックなどやっていればどこにでもいそうな革ジャン姿の20歳のオンナの子である。東京で大学に通うボーイフレンドを追いかけて上京する「奈々」と、こころに別れた恋人を秘めながら、ボーカリストとしての夢を追いかけて上京する「ナナ」。話はこの対照的な二人が新幹線の中で隣り同士の席に乗り合わせたところから始まる。

「奈々」の美大生の恋人は、20歳くらいの優しげだが優柔不断などこにでもいる男の子。名前は「章司」。東京駅まで迎えにきている。「奈々」と「ナナ」は東京駅で別れるが、数日して、二人はアパートを探していてまた再会する。偶然にも、二人が気に入った部屋が同じだった。これも何かの縁とばかり二人は同居することにする。二人のNANAの共同生活が始まる。

それからしばらくして、「奈々」というガールフレンドがいながら、バイト先で知り合った同じ大学の下級生に言い寄られて「章司」はついにその女性と関係もってしまう。「奈々」は偶然にもその現場に遭遇して、きっぱりと失恋したことを受け入れ、ひたすらもう一人の「ナナ」の胸を借りて大泣きする。ほんとうになるようになっていく、このあたりが実にリアルで素晴らしい。

一方、もう一人の「ナナ」は、かつて自分の恋人であり、今は人気バンドで活躍する「レン」という恋人を忘れられない。二人がかつて同棲していた時のシーンがたびたびフラッシュバックする。ギターリストとして、てっぺんまで昇りつめたい「レン」。彼を愛しながらもボーカリストとしての夢を追いかける「ナナ」。だから、「レン」は自分だけがスカウトされて東京に行くことになった時も、「ナナ」にただ自分のオンナとしてついてきてくれとは言えない。若い二人は、今しか生きられない二人は、もうこれが今生の別れとばかり、見送りのホームで泣き崩れる。

そのあたりの話が、本当によくある、しかし誰もが経験する切ない青春を描いている。一歩間違えば、どろ臭い貧相な話になりそうである。それが、なぜか、話にぜんぜん暗さがない。青春まっただ中の、あの20歳の頃の、あの無防備だからこそ逃れようがない結末も、オトナの私には懐かしく、気持ちよく、受け止められるのである。これは、オトナのためにつくられた映画だ!と思ってしまうくらいでる。たぶん、監督の持ち味なのではないか。

どんなにそのときつらくて落ち込んだことも、オトナになってみたら、「あ~、あの出会い、あの別れ、今思えば、一瞬のできごとだったなあ」と思わせてくれることを前提にしているような余裕を感じさせるのである。人間はいつまでも、恋のつらさにヒリヒリばかりはしていられない。ひとつの場所にとどまってはいられないのだ。生きるということは時間という大河を泳いでいるようなものである。オトナになるということは、激流を泳ぎきって、ゆるやかで静かなせせらぎにたどりつくこと。オトナの我々は、その青春の行き着くところがどこなのか知っているからこそ、見終わってなんだかハッピーになれるのかも。そこに登場するすべての人間が、今日を生きている。そこに、50代の私の過去が重なって、何とも不思議な気持ちにさせられた。自分の時間を巻き戻してみているような、もう一度20歳の自分を思い出せてくれる、そんな映画です。女の子の友情が、ほっこり描かれていて、これもなかなかでした。なんとなくのハッピーエンドもまた嬉しかった。翌朝、風邪はどこかにいってしまっていた。こんな邦画なら、ちょくちょく観るのもイイものです。

【NANA公式サイト】

http://annex.s-manga.net/s-nana/