Chapter 1, ある日、おんぼろ家を衝動買い

北フランス・海辺の別荘改装記

アルトの村
アルトの村

15年ほど前に読んだイギリス人の作家ピーター・メイルの世界的ベストセラー、「南仏プロバンスの12ヶ月」。南仏に移り住んだこの作家がおんぼろ家の改装をするのに苦労するという話がユーモアいっぱいに書かれていた。だが、まさかこの苦労を私自身が実体験するとは思ってもみなかった。


4年前に、たまたま訪れた北フランスの海。北は広い、長い、誰もいない砂浜と小石の海岸。南は白い肌が海にせせり立った断崖絶壁。その丁度真ん中にポツンと段々畑のように家々が建ち並んでいる村。小さな漁港は海に浸食されて消え去り、今はうらぶれた家が並ぶ。西風が吹くと海は深い灰色に、風が止み陽の光が射すと一瞬のうちにこの海は魅惑的なエメラルドグリーンに変化する。「オパールの海」と呼ばれるこの野生的な海岸線の虜になった私たち夫婦は、無謀にも一度だけ見に行った家を衝動買いしてしまったのだ。

オパールの海
オパールの海

家主さんは80代の老夫婦。「この家を30年前に中古で買ってから一度も修理した事がない」と、ご自慢のはがれかけたイギリス製壁紙を見せながら家を案内してくれた。 それから延々3時間、奥さんの話を聞くはめになった。二人とも再婚。奥さんは50代で未亡人になり、すぐに犬を飼った。「自分では車が運転できないのと、犬は話をしても返事をしてくれない。たまたま近所に住んでいた車の運転が出来る今の亭主と知り合い結婚した。でも肝心の運転手役の亭主は、このところ年のせいで足が悪くなり運転が出来なくなったので、そろそろ老人ホームに入れる事にした」   

 

しゃべりまくる奥さんの隣に座っているご亭主は、挨拶の「Bonjour」の後はただただ、だまったまま一言も言葉を発しなかった。そのかわりに行儀の悪いプードルが、まるで奥さんの相づちでも打つかのように隣でずっと吠え続けていた。

 

〜Chapter 2 へつづく

 

2010.12.24