Chapter 9:まるで映画のワンシーンのように

北フランス・海辺の別荘改装記(9)

ドスン。くるくるに丸めたカーペットをテラスから外に投げ落とす。それを車のトランクに投げ入れて 、夕闇のせまる誰もいない公共墓地近くの粗大ゴミ捨て場まで運ぶ怪しげなつの影。ロケーションも美術もすっかりサスペンス映画並み。


別荘の壁の補修が出来て壁のペンキ塗りがほとんど終わりに近づいてきたら、残るは床。前の持ち主が何十年も張り替えていない敷き込み式のカーペットは、上等な品だったのかもしれないが、ひどいシミだらけ。どう考えてもダニの住処。我家は毛足の長い犬がいるし、海岸の散歩から帰ると必ず家中が砂だらけになる。という訳で、おんぼろカーペットをおさらばして、掃除の楽なフローリングの床を張る事にする。

ヨーロッパでは、フローリングの床を簡単に自分で張ることができる。既製品のフローリングの板1平方メートル分が一箱になってDIYの店で売っている。色やデザインだけでなく、耐久性や用途に合わせて種類も豊富。そこで、バスルームには素足で歩いても気持ちが良くて湿気にも強い竹の素材のフローリングを、寝室はそこで一日中過ごす場所ではない部屋なので、 耐久性は中級だが低価格で掃除のしやすいパイン材の少し明るめのフローリングの床材を購入した。


床に直接敷いた防音と段差を調節する為のミリくらいのウレタン材の上に、まるではめ込み細工でもするように次々とフローリングの板を敷き込んでいく。フローリングの板は左右の端が凸凹になっていて、そこにパチッと一枚ずつ次の板をはめ込んでいって、壁沿いの余分な部分だけをのこぎりで切り落とす。そして床と壁の隙間部分に巾木を張ってフローリングの板を固定しておしまい。主人と私、人がかりで60平方メートルの床を日間で張り終えた。


「殺人犯は死体をカーペットにくるんで、、」すっかり役者気分になった主人と私は、重たいカーペットを引きずりながら、ふと、自分たちの姿を想像して、闇夜の中で突然笑い転げてしまい、あまり笑いすぎておなかの力が抜けてへたりこんでしまった。

 

それにしても、死体の入っていないこのカーペットの重たかった事。だから本物の殺人犯はよっぽど体力がないとこんな物を捨てに行く事は出来ない。そう、おすすめいたしません。誰かをカーペットに丸めて捨てに行く…。なんて言うのは映画だけのお話です。

 

 

2012.1.16