Chapter 5:父の仕事

北フランス・海辺の別荘改装記(5)

改装前のガレージ
改装前のガレージ

もうすぐ年末だというのに、工事がなかなかはかどらなかった。。ガレージを改装した部屋は壁が出来上がり、部屋らしくなってはきたが、水道屋の仕事が遅いせいでどうしても暖房が入らない。北フランスの冬は寒い、家の中でも凍結する事も多々だ。だからなんとしても、クリスマス前には暖房が入らないと水道管破壊の可能性がある。

 

どうやったら、このずぼらな水道屋にきてもらえるようにするか?

ガレージの扉をはずして、壁を作って窓をとりつけたところ
ガレージの扉をはずして、壁を作って窓をとりつけたところ

そんな時、「南仏プロバンスの12ヶ月」の一章を思い出した。フランスでは「暖炉の自在かぎ掛けをかける日」といって、新しい家に移ったときに一番最初に暖炉の火を入れて鍋をかけ、友人たちを招待して新築祝いをする。我が家もその新築祝いをする事にしたのだ。ご招待するのは工事に関わってくれた大工さん、電気屋さん、屋根屋さん、そして一番ずぼらな水道屋さん。皆に「クリスマス前の土曜日にご家族をつれて、お父さんが作ってくれたお家を見に来てください」と招待状を出した。その招待状が着いて2、3日した頃、なんと水道屋が我が家の玄関の前に立っていた。攻略は功をえて、新築祝いのパーティーには、奥さん子供をつれた職人さんたちが全員、胸を張って我が家に遊びにきてくれた。どの奥さんもご主人の工事をした家を見るのが初めてとのことで、ご主人たちが自分たちの家族を連れて、自分の工事したところを見せて歩いていた。

床を張り終えた元ガレージの部屋
床を張り終えた元ガレージの部屋

「形になるもの」を愛する人たちに見せる事が出来る人は、なんて幸福なのだろう。

 

サラリーマンだった私の父は、会社の中の歯車の一つでしかなくて、自分の家族に形になった自分の仕事を見せることができなかった。それなので、父が40年もしていた仕事が何だったのか、私は知らない。

 

改装を終えた元ガレージ。この部屋は引き出し付きのベッドで、4人まで泊まることができる。
改装を終えた元ガレージ。この部屋は引き出し付きのベッドで、4人まで泊まることができる。
完成したリビングの暖炉
完成したリビングの暖炉

2011.5.23