愛を読むひと

(C) 2008 TWCGF Film Services II, LLC. All rights reserved.
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切なくて、ほろ苦くて、なんて悲しい映画なんだろう。久しぶりにそんな映画を観ました。原作は、『The Reader』という世界的なベストセラーになった小説です。

 

舞台はドイツ。始まりは1958年。「ハンナ」という36歳の女性と「マイケル」という15歳の青年。この二人が想像もおよばない恋に導かれていく。親子ほどの年の違いがあるのにもかかわらず。

 

もし男性が年上なら、21歳の年の差など何の違和感もない。しかし、この映画は違った。女性が年上なのである。そう書くと、50代ならば、ダスティン・ホフマンが主演した「卒業」という映画だって、恋人の母親との情事があったではないかと思うかもしれない。通常はあのような感じで、話は展開する。

 

たいていは、年上の女性のフェロモンに男性の本能がくすぐられてというような・・・

それが、この映画はまったくもって今までのどの映画ともちがい、私が観てきた限りでは決して存在しなかったタイプとして年上の女性「ハンナ」が描かれている。この映画の独自性は、ここにあるともいえる。

 

15歳の健全な青年が、なぜ21歳も年の離れた、母親とも言えるような年齢の女性に、衝撃的とも言える惹かれ方をしたのだろうか。これほどまでに強く、彼の人生に深い陰を及ぼす存在になってしまったのか。私は、映画を観終えたその日から、ずっとそのことを考えた。

 

それは「ハンナ」という存在が秘めている、高潔なまでに美しい絶望感かもしれない。 多感な15歳の、これからまだ輝く未来の光が足元を照らしはじめているその真っ白な魂は、それを犯されることなど予知することさえできない。無防備なまでのその心の中に、「ハンナ」の慈悲深いゆえに打ちひしがれて凍りついているまなざしが突き刺さっていったのではないか。

出会ったその瞬間に、年齢も、性別も、すべてを超越した、魂の結合が生まれたのではないか。だからかもしれない。二人の愛し合うシーンは、静謐な絵画のようだ。封じ込まれたわずかな歓喜と悲しみがにじみでている。

 

初めての出会いから8年後、ストーリーは思わぬ展開を見せる。「マイケル」は「ハンナ」と予期せぬ再会をする。そこから彼女の過去が暴かれていく。「ハンナ」とは何者か?解き明かされていく彼女の秘密。そして、マイケルは弁護士となり、結婚、離婚。時代は1980年代へ。20年以上もの間「マイケル」は、 心に棲みつづける「ハンナ」を抱え、癒えることはなかった。

 

最後に、二人が会うシーンは、残酷だ。「ハンナ」は、初老ともいえる年齢になっていた。しかし、心はあの頃のままだ。魂は 永遠であっても、生物としての輝きには終盤がくる。それが人間の、人間として生きる性なのだ。人間は少年や少女のままでは生きられない。

 

原作もきっと素晴らしいのだろうが、この映画の監督スティーヴン・ダルドリーの巧みな演出に脱帽である。映画好きなら、「リトルダンサー」「めぐりあう時間たち」どちらもご覧になっていると思う。主人公たちの、内面の心の揺らぎを上手く引き出す監督である。「ハンナ」を演じた「タイタニック」主演のケイト・ウィンスレットの演技も秀逸。

 

2010.3.15