動揺する女心 〜 アン・サンクレール(Ann Sinclaire)〜

アン・サンクレール、63歳。第一線有名政治ジャーナリストが、夫の女性スキャンダルまみれにされている。

「私が彼女の立場になったら、きっと同じように行動する」--- 54%。

「でも、最終的には離婚した方がすっきりするのでは?」--- 74%。

10月に行われた女性へのアンケート判定である。

外見は夫唱婦随のカップルDSKとアン
外見は夫唱婦随のカップルDSKとアン

ご存知の方もおられると思うが、彼女の夫は国際金融を束ねるFMIトップ、国際通貨基金・専務理事のDSKことドミニック・ストラウス=カーン氏。次期フランス大統領選(平成24年4月)にはサルコジーに勝てる唯一の人との前評判だった。アンは、我がキャリアをすっぱり思いきり、夫の4年任期をFMI本拠ワシントンで生活していた。大統領夫人になれるだろうという事は、将来設計の中に組込まれていただろう。着任1年目の2008年、DSKは部下を妾として優遇していたというので、スキャンダルになった。噂が消えた2011年3月NY経由でストラスブールへEUのギリシャ対策会議出席のため前泊したホテル・ソフィテルのメイドにいかがわしい振る舞いをしたと大騒ぎになった。メイドがホテル側に訴えて、ホテルが警察通報に及び、彼はパリ行き飛行機に乗ろうとしていたところを逮捕された。空港で後ろ手に手錠をかけられ警官に囲まれた写真はフランスの恥として飽きもせず報道された。6ヶ月をかけて、アメリカ市民法による解決、即ちお金を積んで無罪となった。その大柄で、悪にも手を染めそうなメイドの信憑性が疑わしいため、彼の浮気「癖」を捉えて、失脚を図ったという説も強固だった。

 

FMIを辞任して、パスポートを返してもらい、やっとフランスに戻ってきたら、次ぎの災難が待っていた。フランスでジャーナリスト(36歳)が、8年前のインタビューの際セクハラを受けたと申し立てていたのだ。時効切れであるとの判決で訴訟は取り下げられた。当分政治生命を断たれた夫妻の行動は、しかし外出すればジャーナリストの格好な対象となっていた。

 

だって、ソフィテルのスイートルームは150㎡、一泊150万円、裁判中NY・トライベッカの豪華アパートは月?百万円。名声と金高に庶民は興味と嫉妬を混じえて、びっくり仰天。ココで、単なる第一線の有能ジャーナリストだったアンが、ユダヤ系大画商亡祖父の遺産相続者で、NYの豪華アパートはアンの提供であった事、ワシントンの持家もモロッコの別荘も支払った等、リッチなユダヤ系夫婦の話題に転換されそうになったのだが、先ずNYのフェミニスト達がDSKを攻撃しはじめて、それがフランスにも飛び火してきた。「女の隙に乗ずるような男とは、縁をきった方が良いか?!!」と、かしましい他人へのおせっかいが始まった。

最近まで幸せそうだったアン
最近まで幸せそうだったアン

ところが、またまた、今度は10月半ば、リール市のホテル・カールトン。ここは、長年の間、警察も承知していたVIP客用の高級コール・ガールの仕事場でもあったそうだ。ホテルと癒着して利益を得ていた警察所長逮捕によって、DSKがフランスの財務大臣時代からの常連で、お楽しみの支払いはべルギーの娼婦網元であった事が判明。DSK64歳、一環の終わりである。そんな男を、どうして守ろうとするのか? 放り出したら良い、という世論もあったが、妻のアンは、NYから夫の裁判につきそい、一環して彼をサポートした。クリントン大統領夫人、現外務大臣ヒラリーのように、妻の自尊心を守ってきた。世間は、次期大統領かとも予想していた男に、後味の悪い思いをさせられたが、この位で、下らぬハナシはごめんをこうむりたい、あの男のことも忘れたいと思いはじめた。11月末、今度は何とフランスの現内務大臣が、「DSKは昔、ブローニュの森で、警察官から職務質問を受けていた」と口を滑らせた。凱旋門に近いこの森は、夕闇が迫る時刻から、あまたの娼婦が立って客引きをしている事で有名なのだ。さあ、たいへん。DSKには完璧に病癖があるというレッテルがついてしまった。何年か後に政治復帰という望みもズタズタに切られた裏には、前から知る人ぞ知る事実を追いつめた何者かの意志が働いている様にも見える。男の敵は男である。

 

快活な青い瞳の理知的ブルジョワ娘アンは、30歳から40歳までTVの1時間政治番組を仕切って、人気も高かった。遺産も大きすぎるが、彼女自身も人一倍かせいでいた。再婚同志のDSKとアンには4人と2人の6人の連れ子と孫までいる。1人娘だったアンは常々「仲の良い大家族を作りたい」と言っていた。もう20年生活を共にして、愛する夫だとアンが言いきるDSKの性癖を知らなかったハズはない。女の弱さとは何か? 女と男という動物は、一体何によって行動するのか?

 

アンのロマネスクな行動に同情的だったフランスの女達も、続くスキャンダルに今後のアンはどう行動するのか、羨望半分の興味で見守っている。ELLE(9月30日号)は、よくありがちな夫婦のあり方として、このカップルをターゲットにして7ページもの特集を掲載した。夫婦共働きの多い昨今、“夫婦関係を問う” 女の立場として、アンに興味が持たれている。

 

 

2012.1.4