「一目惚れの効用」

黒地にウサギ柄の長羽織と着物のアンサンブル。6年前の12月のこと、ボディに着付けられたそれに出会ったのが、私と着物との始まり。とても偶然で単純な、でも私にとっての運命的な出会い。一目見て血が騒ぎ、「着物って綺麗!!これ、着たい!!」と抱きついてしまった。

 

無知で幼く、生意気で反抗心の塊だったその昔。日本なんてつまらない、着物なんて一生着ない、着物は男尊女卑(古い言葉になってしまった感がある?) のシンボルだと思いこんでいた私。自由なファッションの世界で生きるとほざき、尊敬もし、大好きなデザイナーがいたパリへ飛んでしまった私。そんな私が、なんと一瞬で着物に恋をしてしまったのだ。

 

その運命的に出会った着物をお正月に着るために着付けを習い始め、3度目の授業の後、そのまま忘年会へ。皆に誉められ、感心され、調子に乗って、私の着物屋さん巡りが始まった。

 

そのあまりにも美しいものがつくられる背景を知りたくなり、東北から沖縄までの産地巡りもした。着物や帯、小物を訪ねる旅のなかで、それらの中に遠く離れた国や遠い昔につながって いる証になるものを発見したりするとワクワクした。病高じて、4年前から自身で着物教室もはじめた。パリ狂いから着物狂いへの大転身。

 

たしかに着物は身にまとうものとして、ただたんに着るもののひとつかもしれない。でも私は、着物を着るという事は日本人の心を着ることだと思っている。だから、つくり手さん達に敬意を払いながら着たい。そして、着物に負けないように自分の内面を少しでも磨き、綺麗に、凛として着たい。それが結果的に、私の若さをたもつヒケツにもなっていると思う。

 

コラム中に登場する着物は人に譲ってしまったので、かわりにお気に入りの1点を。泥染め9マルキの総絣、「乱菊」と云う大島紬です。

 

300工程にも及ぶ 手間のかかる仕事を経て、やっと一枚の大島紬が出来上がる。それだからって着たいと思う柄に多くは出会わないんだけど、これは とりわけ、柄の勢いがあり、気にいっている。

 

2009.3.12