「夏の終わりに」

朝夕に響くヒグラシの輪唱を聞いていると、夏の終わりはいつだってなんだか物悲しげだ。ロンドンに住んでいたころは、夏の終わりとは太陽のない長くてユーウツな冬の始まりと思っていたし、物悲しげなのは一番好きな夏が終わってしまうという子どもじみた感傷もあるのかもしれない。あんなに暑かった今年の夏も、もはや懐かしい...。

 

この夏にママとだんな様と3人で行った温泉宿で、かわいいブタの陶器蚊取り線香入れを初めて目にした。ヤニで茶色くなったブタの緑の渦巻きから、うす蒼い煙りをゆらゆらと立ちのぼらせていた。お客様が来る何時間か前に蚊取り線香を焚き、客人を待つ準備をするなんて、これは日本の夏の「和のおもてなし」だと思う。「ママが子どものころ、夏の朝の匂いといえば、ほのかに布団に染み付いたこの蚊やりの煙だったのよ。遠き日を思い出すわ」。ママの話はいつもいい話。お香のような柔らかい香りから、季節感や幼き日を味わえるなんて、なんて素敵なことなの。温泉に入り、湯上りに浴衣を着て下駄を履き、うちわをパタパタさせながら3人で散歩をしたのは最高の思い出。また来年の夏も温泉に行けたらいいな。

 

そして日本に来て初めて、ママんちの田舎に先祖代々のお墓参りに行った。月遅れのお盆の送り火の日。この日は、家に迎えた先祖の霊を今度は送り火を焚いてお墓に帰ってもらうのだとか。難しいしきたりなどはよく分からないけれど、天からの客人を迎えて送るお盆は、これも日本の「おもてなし」のひとつのような気がするのだけれど。お墓で手を合わせ、花と供物を墓前に供え、見よう見まねでお線香と水を手向けました。優しい日本の習わしを見られたし、だんな様との結婚報告もできたので、お墓参りができてすごくよかったと思う。

 

「夏の香り」と「優しい習わし」を知った今年の夏。ますます日本が好きになりました。

 

マンディ

 

2010.9.13