阪急電車〜片道15分の奇跡〜

(C) 2011 「阪急電車」製作委員会
(C) 2011 「阪急電車」製作委員会

ゴールデンウィークに久しぶりに邦画を観た。「阪急電車〜片道15分の奇跡〜」だ。夕刊を見てそのタイトルに興味を持ったが、それほど期待はしていなかった。

 

それが、映画がはじまると、まるでフランス映画を観ているようなのだ。8歳から65歳

までの、6人の女たちのそれぞれの物語が淡々としたオムニバス形式で展開する。しかしそれぞれの物語は、じつはつながっているのだ。


冒頭のシーンにインパクトがある。一組のカップルと、ひとりの女。その女を演じているのは、女優の中谷美紀。いわゆる三角関係で揺れている3人を、カメラは俯瞰のアングルでとらえている。その女が、自分の婚約者の新しい彼女にまくしたてている。

「あなたは、私の彼を寝とったのよ!」。

次に、自分の婚約者にたたきつける。

「私と結婚の約束をしていながら、何でこんなオンナとナマでやったのよ!」。

強烈な言葉がカフェの中を突き抜けていく。しかし、その恨みつらみのシーンが、なぜか乾いている。みじめな寝とられた女のはずなのに。

「お〜、元気が良くて爽やか!言いたいことをはっきり言える女はカッコイイ!」

などと、観客に思わせてくれるのだ。

 

そのはじまり方は、監督・三宅喜重の演出の巧みさかもしれない。全編に、いわゆる湿っぽさも、ザラザラ感もないのだ。あるのは、今そこにある現実を乗り越えて、新しい自分に出会うための人生のプラットホームに立つ主人公たちの姿だけ。すべてのイザコザは、そのためのプロセスにすぎない。年齢も違う、置かれている環境も違う、ごく普通に存在していそうな6人の女たちが絶妙にからみあい、影響しあって成長していく姿を、まるで、早送りフィルムのコマのように観せてくれる。


そして、観客は、その誰かに自分を重ね合わせることができるのだ。気づくと、共感し、励まされ、勇気づけられている。素敵な温かい笑顔と出会ったような、日だまりで昼寝をした後のような。都会暮らしの観客が、小さな幸せを見つけて、それをポケットに入れて帰ることができる。そんな映画に仕上がっているのだ。

 

普通の人生が、普通の出来事が、片道15分の阪急電車の中に凝縮されている。こういう軽やかでポエムの香りをただよわせてくれる映画に、多くの感想を語るのは野暮というもの。散歩する気分で、ご鑑賞あれ。特に、女性には観てほしい一篇です。

 

「阪急電車〜片道15分の奇跡〜」公式サイト http://hankyudensha-movie.com/


 

 

2011.6.8