ローランスの場合(2)

ローランスは姉の勧めでキネシテラピーを受けることにした。これは人間の筋肉が精神的なストレスに反応して縮んでしまうという特徴を利用して、体から発する波長や反射神経の反応を見ながら、心の中に隠れているストレスの原因を見つけるというもの。このストレスの心理的原因を患者が知覚する事により、自分の体と心のバランスを自分で改善していこうというテラピーだ。心理学との違いは、キネシテラピーは「治療」ではなく、自分の潜在的な心の反応をただ単に自分自身に気が付かせるきっかけを作る事だけだということ。

日本で言う「気」という言葉が、まさにこのテラピーには当てはまるといえよう。心と体のバランス(気の波)によって、人は病気になったり勇気が出たりするといわれる。このキネシテラピーの医学的な根拠はまだはっきりしていないようだが、欧州ではスポーツ選手などがプレッシャーを克服する為に受ける治療の一つとして有効性が高いと評されている。

 

このキネシテラピーのおかげで、ローランスは少しずつだが家の外に出られようになっていった。彼女は知人の庭の手入れをするようになる。一人っきりで鳥の歌声を聴きながら庭の植物に触れる時、その時だけが自分自身を取り戻していることに気が付いていった。 そして、ゆっくりと4年が経った。

ある日、ローランスが友人の家の庭の手入れをしていると、素晴らしいテノールの声が聞こえた。振り向くと、そこには大学時代に憧れたエリックが立っていた。彼は相変わらずの素晴らしい容姿でオーラを放っていた。ローランスは『この人と今、話をしなかったら私の人生は終わってしまう』と突然思った。そして不思議なことに自然に彼に近づき、自己紹介をしていた。こんな積極的な自分は初めての事だった。

 

話をしてみると、エリックは学生時代に彼女が想い描いていた様な威圧的な男ではなかった。繊細で暖かい人柄、ローランスは彼に引かれて行く自分を直感した。『彼を愛そう』、彼女は心に決めた。彼女に素晴らしい笑顔が戻って来た。

 

彼を愛そうと決めた時から、彼女は迷わずに自分の心に忠実に進んで行った。エリックは彼女の一途な心に引かれて行った。既婚者であったエリックとの恋愛には色々な難関があった。しかし、再会の5年後に二人は結婚した。ローランスは言う、「心から人を愛せば相手もその気持ちを感じて行くのは自然だと思う」と。

ローランスはキネシテラピーに出会い、自分自身の生命の波を調整する事を覚えて、少しずつ自分自身が解ってきた。「なんて沢山の人が自分自身を見つめる事が出来ないでいるのだろう? 潜在的には自分自身でまちがった道を進んでいると感じてはいても、変化が怖い為に目をつむったままで、本来あるべき自然な人生の軌道を外す人がなんと沢山いるのだろう。私自身も長い間苦しんで来たから、本当に良く解るの。だからこそ今、私が他の人を助ける時なのだと思うの。」

 

そしてローランスは自分の心と体のバランスを保ってくれたキネシテラピーの勉強をして、今度は彼女が色々な人にテラピーを施している。

ローランスは今49歳。ブラッセルの町中にあるお気に入りの自宅に、素敵な診療室を構えて住んでいる。そこには旅に出た時に集めた石を使ってモービルを作り、「気の波」の象徴にして飾っている。

 

彼女は年に1度長い旅に出る。今年はニュージーランドとソロモン諸島。リックサックを背負い、寝袋を持って、大自然の中でたった一人、彼女が欲している自然のエネルギーを心と体に充電をする為に旅に出る。自然の光が与える明るいエネルギーを受けて、彼女の笑顔はまるで幼女の微笑みのようなオーラを放つ。

 

2009.10.9