Chapter 17:イサム・ノグチのランプシェードを修理

北フランス・海辺の別荘改装記(17)

どうして犬はしっぽを縦に振る事が出来ないのだろう?

我が家の歴代の犬達は、リビングのローテーブルの上のものを盗み食いしたりはしないが、しっぽでお客様用のクリスタルのワイングラスをひっくり返すのは得意だ。そしてもう一つの特技、リビングにある父と母から結婚祝いにもらったイサム•ノグチの大きな和紙で出来たアカリシリーズのランプシェードを何度しっぽでおっことしてくれた事やら。2代目犬のシリウスは小さい時にあまりにもやんちゃで、このランプを落とすのが専門で何度か主人からしかられたせいか、最近はあまりこのランプに寄り付かなくなったが、この大きな提灯のようなランプは2匹の犬達のせいであちらこちらが破れてしまっていた。

彫刻家イサム•ノグチと岐阜の伝統的産業である岐阜提灯との出会いの中から生まれたこの素晴らしい和紙の彫刻ランプは「障子紙を通した電灯は太陽と同じ光になる」というノグチの発想どおりに、優しい暖かい光りを放ってくれていて私たちはとても気に入っている。

同じランプを売っているインテリアの店にランプの修理を問い合わせたところ、この店も同じようにランプが風で落ちて破れてしまったけど、ヨーロッパでは修理が出来ないとのこと。また、日本のインターネットで調べたところ、岐阜のこのランプの生産メーカーも修理は出来ないという事がわかった。このまま破れ放題にしておくと、バランスよく組み込まれている提灯の竹の骨まで折れてしまう可能性がある。それならば、自分で修理をしてみようということで無謀な修理が始まった。

材料は和紙とノリ。

まずはノリを作る。 私が小さい時、祖父の家に遊びに行くと、そこは大きな病院で、患者さんのカルテをとじるために毎朝祖母がご飯の残りのご飯粒を使ってノリを作っていたのを覚えている。

ノリは毎日作らないと、乾燥して翌日はつかえなくなってしまう。ノリ作りのための小さな板にご飯粒をのせて、ヘラで丁寧につぶしていく。一人っ子の私は、それを眺めるのが小さい時の楽しみだった。そして、その朝に出来たノリを少しいただいて工 作をするのが祖父の家での私のお遊びだった。そんな想い出をたどりながらノリ作りをする。

ノリはでんぷんで作るから、お米でも、小麦粉でもコーンスターチでもいいのだが、 私の材料は製本を勉強したときに覚えたアミドンと呼ばれる洗濯の時に使うノリ、といってもいまだにきちんと洗濯ノリを使って洗濯する人がいるのか解らないけど、 ワイシャツやシーツにのり付けをしてパリッとした洗濯物というのは良いものだ。でも、私はそんな面倒な事はした事がないので、製本の修復の時用にのみ使用している。ヨーロッパではこの洗濯のり(アミドン)が未だにクラシックな箱に入ってスーパーで売っている。そのアミドンを大さじ2杯くらいに水1/2カップくらい、まずは両方とも鍋に入れて、ある程度とかした後から、鍋を火にかける。途中焦がさないようになんども混ぜて、ちょっともったりして沸々と気泡がでてきたかな?というところで火を止めてそのまま静かにさます。

日本の和紙は本当に素晴らしい。和紙の長い繊維が絡まって、その繊維の特性で和紙は破れにくい。そして今回の修理には繊維質の強い構造が一番。和紙を切る時には、はさみは使わない。はさみで和紙を切ると和紙の特性である繊維質が切れてしまうので、筆に水を含ませて必要な大きさの形を筆で線書きして、そのあと手でちぎるようにして切っていく、すると和紙の繊維が自然と離れていく。板の上にちぎった和紙をのせて、その上からノリを筆でつけていく。和紙のふちの繊維質を上手に広げるようにしてのり付けする事がコツ。そして破れた提灯の和紙の上にちぎれた部分の和紙の繊維をうまく重ね付けするようにして貼り付けていく。なぜかこの時、一人でハミングしている歌は「しとしとピッチャン、しとしとピッチャン」何で、子連れ狼なの?

提灯の破れていたところを修理し終わってひとやすみ。一服しながら作業の様子を眺めてみると、補修した部分があまりにも沢山あり、修理をしたのはいいが、補修したところの和紙が同じような色を使っているのにも関わらず、なんとなくめだってしまった。娘が、「それなら全体的に和紙をつけてモチーフにしては」というので、家中に残っていた和紙を取り出して、提灯全体に和紙をちりばめて貼り付ける事にした。

夜になった。修理したランプのアカリがともる。娘が一言、「まるでキリンみたい」確かに、貼付けた和紙がキリンの模様のように見える。ということで、「アカリのランプ」は「キリンのランプ」に変身した。こんな有名なランプをキリンに変身させてしまって、ちょっともったいなかったかしらね。。。


 

 

2014.6.23