<パリ発>春の森

From 雪

3月末の時事週刊誌は、この同じ写真の表紙になった。災害地に毛布をかぶって呆然とたたずむ娘。
3月末の時事週刊誌は、この同じ写真の表紙になった。災害地に毛布をかぶって呆然とたたずむ娘。

3月11日から地震津波原発と1ヶ月が呆然としたまま過ぎようとしている。

フランスのマスコミが原発の放射能汚染を取り上げるのは日本より迅速だった。電力の79%を賄う原発国フランスは、雑誌、TVなど何回も特集を組んだ。

在仏邦人は故郷が遠いからこそ心配で浮き足だち、故国への募金活動がすぐ始まった。

l'Express, le Figaroの特集号
l'Express, le Figaroの特集号

世界中が真剣に文明の転換を問う動きを始めた。災害取材で東京に飛んだフランスのジャーナリスト達は、日本が他国では真似ができなかったろうともいえる保全をつくした経済力にもかかわらず、なお自然の力の前には無力であり、被災者の張りつめたせつなさを「叫ばず」に、心の内に閉じ込める静かな涙に感嘆しているらしかった。ほぼ20日間毎日、日本国民が辛抱強いと誉められる感じで報道された。フランス中の日本の存在に無関心だった人々にまで、TVのおかげで「日本人」がクローズアップされた日々でもあった。知人友人は言うに及ばず、スーパー、薬屋、パン屋等、通常は一人の客でしかなかったのに、皆が親切に声をかけてくれた。ベトナム人、中国人、たくさんのアジア人が住む国だ。

「失礼だが、あなたは日本人ですか? 家族は大丈夫か。悪夢が昨日今日の現実なんだね」と。

 

 

 

 

 

 

 


4月6日 国営アンテナ2のお昼のニュース

あれ以来、毎日昼、夜のニュースで原発状況が説明される。

 

 

4月に入った。原発問題の憂鬱をはらしに我が家の後ろに広がる森に出かける。パリから28km。昔はこの辺までルイ14世が狩りで馬を走らせてきた。ベルサイユ宮殿とは目と鼻の先だが、今は道路で分断されている。

落葉樹の多いフランスの森の春は実に美しい。冬の黒いような森の木々が一斉に芽吹いて、軽やかな黄緑にかわる。朽ち葉の積もった大樹の足下は野生の白や紫の花で覆われる。小鳥がさえずり、リスが走る。木漏れ陽を受けながら子供が母親と花摘みをする。30分程森に分け入ると、幸運なら早朝か夕方には野生の鹿の群れに出会うこともある。季節が来れば、きのこ狩りや栗拾いをする森の彼方、北の造成地10km先、広大な畑地の向こうには、ここにもたたずまいだけは静かな国立科学研究所がある。勿論、原子研究も含まれている。

 

ともかく、世界中では435基の原発が稼働しているとか。空恐ろしい地球です。 

 

今、現実に立ち向かう日本は、国土の一部を失いつつある。

がんばって下さい、被災者の方々。

日本は豊かな自然の恵みある国であることを思いおこしましょう。しばし、森の緑をお届けします。

 

2011.4.12

世の中をハスに眺める癖のある自由業主婦。
人間相手だとイライラがつのるので、自然風物を愛でる。
但し仙人ではないので、普通の社会生活に準じているつもり。
フランス在住20年。