<パリ発>書籍展示会“日本年” — Salon du Livre (サロン・デュ・リーブル)

From 雪

年一度のフランス書籍展示会(ブックフェアー)は2012年度の招待国を「日本」と決めて3月16日から19日まで開かれた。私は土日曜日の1718日を観覧した。会場の5つの入り口は10時の開館を待つ男女の行列でごったがえしている。入場料1日9


日本から20人の招待作家が来仏された。マンガ、探偵小説、児童絵本、ルポルタージュ、俳句、詩、小説、写真など、あらゆる分野で活躍されている作家が、仏の同傾向、あるいは対比できる作家や翻訳者と同席して対談や講演をする。ハナシの進行はお互いの作品や活動を良く知る専門同業フランス人だから、聴衆は本質にせまるハナシに魅了されている。

世界中のフランス語圏を含めたハイチ、チュニジアやブラジル、エジプト等からも作家がきている。出版社がたくさん出展していて、来場者は各国作家の本を買い求めて、各所に併設された作家のサイン会に列を作る。

 

フランスは日本の次にマンガ好き。マンガと津波は、フランス語になってしまっている。大勢の若者が床に足をなげだして、マンガを読みふけっていた。出展出版社も、そうやって買わずに読んでいるのをじゃましない。

日本ブース4つの会場では、2時間ずつ3つの講演がほぼ同時進行して、1会場だけは華道、茶道、紙芝居、折り紙など、伝統文化の簡単紹介が実演付きで繰り返されている。やはりノーベル賞の威力か、大江健三郎氏がいつも一番賑わい、4分の3はフランス人聴衆で、椅子が足りなくて床に座り込む人が大勢いた。氏が人生の終末をひかえて、ライフワークとして行動する動機について、「福島によって、気づかされたことは、終わっていなかったヒロシマノートだった。」とクンデラやエルナニのハナシを交えれば、鎌田慧氏が「脱原発」35年間に渡る告発を交差させ、講演者2人ともが「原発=金)に汚染された日本文化」「今の社会(世界)のカタストロフィー」をこのままにしてはおけないと、人の生きる価値を説き、会場は賛同の拍手で盛り上がる。2人が「脱原発1000万人署名」の呼びかけ人として、日本中の集会を駆け回っているのを私は知っている。堀江敏幸氏が平野啓一郎氏と彼等の源泉であるフランス文学の影響を、駒形克美氏は、眼の見えない子供達のために「紙」にこだわりながら創作している本について語れば、フランス人で、その影響を受けたが全てパソコンで制作する作家とのかけあい。それぞれが自分の世界で一家をなして、仕事に愛着を持って活動し続けているから、言葉のひとつひとつに味がある。

   
   

それにしても日本語を的確に通訳するフランス女性が大勢いて、びっくりした。日常会話とちがって、奥行きのあるハナシ、分野のちがう話題を即刻聴衆に伝える優秀な翻訳者は一昔前には、珍しかった。ネット時代とはいえ、仏国では日本で買う2倍価格の文芸春秋を毎月読んでいるとはいえ、やはり目の前で聞くハナシは心に響くものがあった。それに、招待国作家と対話する仏人が聞き役に回り、差し挟む疑問、簡素にまとめて話題を進めたり転換させたりするやり方が実にうまかったからという事もある。さすが議論に耐えられた仏の文人等だ。

招待作家中一番の高齢77歳の大江氏は、郡山の脱原発集会で演説、ドゴール空港に到着して、ホテルに入るとすぐ仏TV局の迎えがきて、1時間の生番組出演。それから食べたり寝る時間もないほど、各局TV、新聞文芸誌インタビュー、夜のパーテイー。1日2回の講演の合間に長蛇のサイン会。時差もなんのその、ものすごい耐久力で、ハナシの内容も疲れが見えないし、常にリラックスしている。大分前から、彼の作品を読まなくなっていた私は、真近に接して感心してしまった。今回、つくづくノーベル文学賞の大衆に与える威力を感じた。大江氏のサイン会に並ぶフランス人の長蛇の列!! 日本人がノミネートされればされる程、日本文化全体の世界に与える価値観が上がる。かなり政治的「賞」だから、次のアジア候補が村上春樹氏あたりになった際、結局は韓国に持っていかれるという結果にならぬよう文化庁にがんばってもらいたいと思ったことでした。

 

私は仲間と、仏人を対象にしたFUKUSHIMAの実態について、鎌田氏に講演をお願いしてあったから、拉致するように別会場に案内して、100人を越える聴衆を前に3時間の講演後はワインを飲みに行き、夜中にホテルまでお送りした。氏は73歳。使命感がみなぎる静かな人でした。

招待作家群は せっかくフランスまで来ていながら、セーヌ河岸の散歩はおろか、展示会場で掘り出し本を探す楽しみもなかったらしい。日本の締め切り原稿をかかえながら、前後5日間の過密スケジュールを大忙しで働いて帰国された。メッセージの手段を持つ彼等がフランス文化にナマの強い足跡をしるし得た、日本にとっては意味深い催しだった。

 


2012.3.28

世の中をハスに眺める癖のある自由業主婦。
人間相手だとイライラがつのるので、自然風物を愛でる。
但し仙人ではないので、普通の社会生活に準じているつもり。
フランス在住20年。