Bien Être (=ビアン・エートル)快適生活のすすめ

フランスの中高年層の間で、”若がえり”とさわがれて婦人雑誌をにぎわしていたのが、この1年程の間に影を潜めて、今は”Bien être(充足感)”という言葉が取って代わった。これが自分の加齢を意識し始めた人々に向かって、ボトックスやレイザーなどのアンチ・エイジングはほどほどにして、生活意識を開発すべきと説得するようになった。女心はマスコミの煽動に乗り易い。1年前まで、マスコミで活躍した美容整形外科医やスタイリスト、ジャーナリストに代わって、最近は栄養学士、婦人科医、ヨガ、気功等の専門家が登場して、「1日4種類の果物や野菜を摂れ」その上で、自分にあった運動を継続する。」「家にこもっていないで”社会参加”をして、気楽に声をかけたり、話す友人を持つ様に心がけるのが望ましい」と至極真っ当なコメントになった。”社会参加”というと大げさに聞こえるが、要は趣味のサークルやボランティア等に積極的に出掛けて、手芸でも絵でも合唱でも、楽しく有効な時間を共有すべしということだ。

Mont Dore オリエンタル風に荘重な内装の湯治所  (モン・ドール町)
Mont Dore オリエンタル風に荘重な内装の湯治所  (モン・ドール町)

”若返り”が、時間を止めようという事だったとすれば、”Bien être”は、年齢に抵抗をするよりも、年齢を受け入れて、自然体として自由になるという違いだろうか?”若返り”とセットで、海岸近くにあったタラソテラピー効果が喧伝されたが、今は”ビアン・エートル”とセットのターマリズム”が脚光をあびている。ターマル=鉱泉は、日本と同じに医学が発達していなかった19世紀頃までは、王室も貴族もブルジョジョワも”保養”と称して頻繁に出掛けて鉱泉に浸かったり飲料とした。そのせいか、元はと言えば、上流階級用の重厚石作りの保養施設が内装を近代化させて、随所に残っている。

Royat Chamalières 敷地中庭の鉱泉水のみ場   (ロヤ・シャマリエール村)
Royat Chamalières 敷地中庭の鉱泉水のみ場   (ロヤ・シャマリエール村)
鉱泉のある町を囲む風景  (モン・ドール町)
鉱泉のある町を囲む風景  (モン・ドール町)

La Bourboule ドルドーニュ川の流れに沿って立つ(ラ・ブウブル村)
La Bourboule ドルドーニュ川の流れに沿って立つ(ラ・ブウブル村)

先頃、中央山塊地帯の18の温泉町がまとまって、鉱泉街道キャンペーンを始めた。フランスでは一般に3週間単位での滞在が効果的とされていて、医者の湯治処方箋がある場合、医療保険がカバーしてくれる。この場所はリューマチ、この場所は筋肉痛にとそれぞれが鉱泉効果を表示して、オーベルニュ地方クレルモンフェランを中心に東西南北に点在する温泉町が風光明媚な山間観光や食文化を紹介して、「当地にはよく、シャトーブリアンがきました。タレーラン、ジョルジュサンド、バルザックが...」と歴史的解説もおこたらない。山の斜面が冬はスキー場となる地が多く、時間とお金に余裕のあるスキー客が鉱泉町に立ち寄っていく。

Bourbon-l'Archambaut ブルボン王家発祥の地
Bourbon-l'Archambaut ブルボン王家発祥の地      (ブルボン・ラーシャムボー村)

鉱泉場には湯治効果を説明して、「あなたのより良い体調のためには、硫黄鉱泉プールでアクアジム、急所のマッサージ、睡眠や呼吸を調整する機器は何番の部屋で」や「1日に1リットルは鉱泉水を飲みましょう」等と一人一人に体験用プログラムを作ってくれる。インストラクターたる職員の土日休暇は、近隣の山河散策コースを客が自由に選択できる。まるまる1日中を健康のためだけに費やすのは、余命を快適にする知恵で、自分へのご褒美でもある。フランス社会の潮流は自然還りを欲して、やたらにサプリメント服用するのをいましめている。