One-woman-show 〜ミュリエル・ロバン(Muriel Robin) 〜

大柄なミュリエルが1人舞台で観客を笑いに笑わせている。骨柄に合った太いアルトは、昔歌手志望だったのを彷彿とさせるが、最近では年末恒例の慈善TV番組で、ホームレスに「食」を提供する「レスト・ド・カー」(=心のこもったレストラン)の司会を務めながら上手に歌も歌ってしまう。番組は有名な芸能人・スポーツ関係・消防隊等が工夫をこらして無料出演して、貧しい人が少しでも暖かな冬をすごせるための募金活動に協力するのを名誉としている。

 

エイズ撲滅、身体障害のためなど、フランスには社会福祉への慈善団体が実に多く、年中郵便受けには、あらゆる種類のアフリカ・アジアへの義捐金、盲人への援助、赤十字、癌研究費用など、絶え間なく寄付を呼びかける封書が届く。政府認可のこれらの市民団体に寄付をした金額の半分位は税金を控除される仕組みだ。100ユーロの寄付中50ユーロは年収から引き算される。大企業は人助けと税金対策のため大寄付をする。

ミュリエルは54歳、リヨン市西の小都市で生まれた。3人姉妹の両親は3軒の靴屋を持ち、年頃になった娘たちは、靴屋の売り子として、あまり熱心になれずに店を手伝っていた。小さい時から人を笑わすのに長けていたミュリエルは、活路を求めてパリに上ったり、良いツテもなく田舎に逆戻りしたりしていた。彼女がユーモリスト芸人として人に知られるようになった時は30歳。独立して食べられるようになるには更に5年。時代を反映した事象を言葉だけで観客に伝え、その上笑わせるというのは、ネタ仕入れとパフォーマンスの厳しい世界だ。男の芸人が多かったこの世界に女として先鞭をつけた。女の品格を失わずに、きびしい皮肉を舞台で演じるのは、決して易しい仕事ではない。

 

---- 私は動物のように、直感人間なのよ。コレが、私の仕事に大いに役立ってくれるの。でも、何でも手をだすくせに、すぐ飽きてしまう。バイクに乗ったり、手芸をしてみたり、大体の奥義入口で興味が薄れて他に行く。最後までやり通せない。----

 

と自己分析。

 

----ライザ・ミネリのように、歌ったり踊ったりできたら嬉しいけれど、どうも高望みのようだから、憧れのライザと友人になれただけで満足しているの。----

 

----次の目標?? 世界一周を目指して準備中よ。----

 

彼女はTV番組のため、ナミビア国に入って、裸で暮らす民族と1週間の生活体験をした。未開世界に魅せられたのかもしれない。

 

---- アンチエイジ?? スポーツね。告白すれば12歳の時からタバコを吸って、1年前から禁煙に成功しているわ。身体によくないのは知っていても、完全に止めるのはなかなか。今は走ったり、踊ったりしても息切れしなくなった。次にバイオ食品。料理するのが好きだし、料理本も山と持っているのよ。ついでに身体の器官や筋肉の働きまで調べてしまうわけよ。----

 

----トシとるのは、やはり怖いし、嬉しくもないわね。若返りたいとも思わないけれど、他人に迷惑をかけないように健康でいたい。----

 

---- 随分精神科医にも通ったし、人はそれぞれの経験を通じてしか学ぶ事はできないと思うから、今の私の姿をみてもらう、、、それだけね。----

 

知る人は知っているが、ミリエルは女として男を愛せない事に随分悩み続けた。彼女の笑い顔の奥に深い暗い懊悩があった。

 

---- 一番好きな良い時間は、コルシカ島に買った家でのんびりする時。海と山が目の前にあって、夕陽が地平線に落ちていくのを見ている無心の時よ。----

舞台の成功は友人の輪を広げ、オランピアなど芸人の最高殿堂を満席にし、TV、ラジオ、映画が彼女を誘い、エイズ撲滅、アフガニスタンの子供を援助する慈善団体等に引っ張りだこだ。彼女の『悩みを分け合う』生活信条は、2007年アメリカでエミー最高女優賞を贈られている。

 

---- 生まれ持った肉体条件と年輪を受け入れて、世の中への興味をもち続ければ、誰でも優しい心を失わないのではないかしら。----

 

そうだ!! やさしい表情は美しい。

 

 

2010.5.10