年齢(トシ)とる楽しみ 〜クリステイン・スコット・トマス(Kristin Scott Thomas)〜 

10月末封切られた「サラと呼ばれた子」。この映画は、ヨーロッパが飽きもせず68年間も毎年のように繰り返すテーマ、不幸なナチ時代の物語。ジャーナリストに扮する主役クリステイン・スコット・トマスは19歳からフランスに住む英国籍女優。フランス人産科医師との間に22歳の長女を筆頭に2人の息子の母。今年50歳になったばかりで、女優としてはむしろ遅咲きだったが、最近特にそのキャリアを確実なものにしつつある。

 

インタビューを受けて話す内容は、しっかりと的を得て、醒めた人らしく、控え目で余分な事は言わない。彼女のように、イギリスとフランスという似て非なる国との国籍者は、本能的に2国、2者が心に住み着いて、物事に距離をおいて見るのが習い性になっているのではないだろうか。かく言う私も日仏二重国籍を保持している。私の場合「東は東、西は西」と思っていられるのだが、英仏の場合は700年間ほどは同盟と戦争を繰り返して,愛憎の深さは先祖代々受け継がれている。例えば我家で英仏人が一緒になると、お互いの祖国を尊重した上なのだが、罪のない皮肉を飛ばし合うのが常だ。「エッー!! 英国料理なんてあるの!!」とか「彼と結婚したいといったらネ、父は屁理屈ばかり上手いフランス野郎と結婚なんて、お前を育てた甲斐がない、、、と言ったわ!!」等など。

だから現在も、英国だけはヨーロッパ圏なのにユーロ・マネーに入らないし、イラク戦争のような決定的瞬間はアメリカに傾く。クリステインの場合は英米仏映画に出演して、国際的活躍をしているが、ロケが終われば子供たちの居るパリに戻り、仏語をしゃべりながらイギリス人の心で日常生活をしているのではないかという私の予測はホボ間違いないと思う。産みの母と育ての母みたいな関係と考えれば理解しやすい。そんな彼女は、「私は優しくて良い人という役柄より、一本スジを通す、自分とあまりかけ離れていない、状況によっては他から批判されても仕方がないような役柄をも演ずる方が、自分を投入できるし、冷静に役をこなせる」。「有名な女優さんたちが、国連大使や、子供の救済、エイズ撲滅、政治・宗教的な女性への迫害などの政治的活動に積極的に参加していますが、私は今はただ普通の働く女でいるだけで充分」と、セルフ・コントロールがきく。パリで12月封切り予定のジョン・レノンの半生を映画化した「一人ぼっちのあいつ」中で、クリステインはジョン・レノンの叔母さん役を演じる。

12月公開映画 “Nowhere  Boy” から
12月公開映画 “Nowhere Boy” から

「多分、私達にとっては『恐怖』と言う感情が一番の敵だと思うの。今日は昨日よりよく戦ったかしら。そうだと良いのだけど。私は自然本能についての哲学があまりないけれど、例えば齢とるのは恐怖じゃないわ。少なくとも自分のトシを今までもこれからも隠さないわ。51歳、52歳、53歳。それなりの楽しみや苦しみがあるはず。その時々で自分のできることを地道にやってゆくつもり」。彼女には「トシ」を楽しむ「決意」ちゅうもんがあるんやな!! そうだヨ。女が姑息にトシを隠して、カッコウつけたってなんぼのものではないんや。トシを公表して「若いのね」と他から言われている方が清々しいと、私も思っている。

 

2010.12.2