エキセントリック

女優で歌手のアリエル・ドンバズルは今年56歳。 ここ10年ほど、私は彼女の話し方や仕草をしげしげと観察しているのだが、どうも不自然さが身についてしまってそれ以外の振舞い方はできないらしい。 そう感じるのは、見る側のひがみか。しかし嫌な女だと思わせながらも、常に気になる女であるということは、やはり凄い女であるということか。 白人でも珍しい真珠のような肌、素晴らしいプロポーション、ブロンドの髪、明るく青い瞳。

 

父方はリヨンで絹織物工場を経営していたブルジョワ。貴族出の母親は彼女が幼い時に若くして亡くなる。 フランス大使であった祖父の赴任地、メキシコで育てられた。祖母もインドのノーベル賞詩人タゴールをフランスに紹介した詩人で作家。 何不自由なく成長した娘が18歳でフランス住まいを決めた時には、すでにショー・ビジネス界でキャリアを積もうと決心していた。 その頃は、「妖精のようだ」ともてはやされた。フランス語は勿論、英語もスペイン語もぺらぺらで博学でもある。 映画には100本以上出ているが、最近は端役がほとんどだ。女優なのかと思っていたら、突然オペラのアリア風にソプラノを響かせて、オペラ・コミックのレコードをだして、今時変わった事をすると珍しがられた。 2年前彼女はクレイジー・ホースの舞台で半裸の美女たちに囲まれて、彼女らにひけをとらず歌ったり長い脚をセクシーに見せびらかした。 その時、私は彼女の年齢を知ってひっくり返った。たいしたものだ。文句なく完璧に美しい肢体だ。

彼女は相手が誰であろうと悩殺しながら、ひらひらと羽根で顔をなぜては、はぐらかすような感じの話し方をするから世間の男達を悩ませ、女のするどい観察眼を満足させる。 アリエルの自己を演出するエキセントリックな技巧は、デリケートで意図した軽さにあるようだ。

 

気位も高く自意識過剰気味な女に、マスコミは興味本位な質問をする。 その手に乗らず、落ち着き払って同じ質問を相手に返す度胸もある。怖いもの知らずのようだが、ある日訪れる”老い“に、彼女は何を備えているだろう。

---- サンローランが亡くなって、ガリアーノ、マックウィーン、ラクロワのコレクションから舞台衣装を選ぶのよ」。 香水はアロマテイゼ・エリキシール(クリニック製)。若さの秘訣は、「菜食、毎日の水泳、時間の許す限りいつでもどこでも歩くこと。----

 

---- 身につけるドレスやアクセサリーも好きだけれど、それ以上に美術、骨董品への興味の方が大きいわ。美術品に囲まれていると”詩“を感じるわ。----


---- 男になりたいなんて、思ったこともないわ。女であってとても良かった。男より女のほうが逆説的でセンチメンタルでしょう。他の人がどう生きているかに興味があるの。----


ユダヤ人のプレイボーイ哲学者と2度目の結婚をして、16年が経つ。二人はお互いにわけの分らぬ魔性に惹かれあっているようだ。

 

 

2009.6.19