夏の終わりに

暑かった陽射しも、今では陽が落ちると羽織るものが欲しくなる北国です。

そんな夏も終わりに近づいたころ4年ぶりにまた、十勝の森の中にある居心地のいい、中札内美術村に行ってきました。広い柏の森の足元には萩などの秋の草花が可憐に咲き、四季折々静寂な自然の美しさは本当に完璧です。

今回も、お昼時を目指して森へ到着、森の中にある「ポロシリ」という十勝農産物で作られるお惣菜レストランへ直行です。色とりどり何種類ものお豆が入ったおこわをメインに、何品かのお惣菜を選びお腹を満たしました。そして、森の中には4つの美術館が点在しているのですが、一番に私が向かうのは大好きな小泉淳作美術館です。館にはDVDのコーナーがあり、まずはそこでじっくり久々の小泉巨匠の姿を拝見、前回は東大寺の桜の襖絵を制作する姿でしたが、今回は建仁寺の双龍図の制作風景でした。80代に入ってからのエネルギッシュな大作に取り掛かる姿は見応えがあります。残念ながらご本人は数年前に亡くなりましたが、今回も館内に残された数々の絵画には圧倒され、心満たされるものばかりでした。

そして旅は帯広から釧路湿原へと向かい、以前から行きたかった広大な湿原に少しだけ足を踏み入れ散策することができました。丹頂の姿は冬の餌場と違い、今時期は色々な所で自由に餌が確保できるため、なかなか人里でお目にかかるのは難しく、いくら双眼鏡で目を凝らしても探し出すことはできませんでした。

広い北海道をほんの少しだけ、夏の終わりに小旅行を楽しみました。

今回の篆刻は「襤褸」らんると読みます。良寛の詩で有名な言葉。ぼろ布の「ぼろ」という意味です。何も持たない執着しない境地のようです。

現代社会に生きるものとして、無駄の多さに時々心痛めますが「ぼろは着てても心は錦」とはなかなかいきません。 心の隅に襤褸と刻み、極力余計なものを省く日々を目指します。

今回は2cm角の巴林石(ぱりんせき)に刻し、夕焼けに赤く染まるトンボが描かれた絵ハガキに捺しました。 きっと良寛さんも、こんな空を見上げていたような気もします。


今回の手作り品は日本刺繍を刺した筥迫(はこせこ)です。 3年ほど前から月に1度、日本刺繍を習い始めました。

図案を決め、糸の色を決め、刺し方を決め、そして美しい絹糸をたくさんヨルことから始めるという、気の遠くなるゴールなのですが、地道に完成していくのは、思いのほか楽しく年に1、2本の帯が完成していきます。きもの好きには魅力的な趣味になりました。

先日教室の作品展があり、各自、自作の帯やきもの、半襟などと一緒に共通作品としては、筥迫を出品しました。

筥迫は花嫁さんが胸元に入れておくもので、匂い袋が下がり、懐紙や鏡、かんざしが入っています。

15名の生徒は各自図案を考え全員図案が重なることもなく並んだ筥迫は圧巻でした。私の筥迫はピンクのちりめん地に牡丹と蝶の図案です。筥迫制作はとても楽しくひとつ完成した後、もうひとつ色を替えグリーンの牡丹で作ってみました。今は居間の飾り棚の上に二つの筥迫が並んでいます。


2015.8.31