「読書家がやって来る」

ショートカットのヘアスタイルが素敵に似合う私の友人が、「あなたにお薦め!」と言って1冊の本を手にやって来ました。度々彼女のお薦め本には感激するのですが、今回は何をもって私に薦めるのか興味津々。早速、読み始めることに。

 

なるほど、友人にはすっかり単純回路の私の嗜好を読み取られ、見事に私は本の中へ引きずり込まれていったのです。その本は、小川糸さんの「喋々喃々」。東京谷中で、アンティークきもののお店をやっている女性が主人公。そのお店を中心にご近所の素敵なおじ様、おば様の面々、谷中周辺のじつにそそられる美味しそうなお店の数々、そこへ初めての初釜に着ていく男性用のきものを探しに現れた声のいい男性客。そこから、彼女の幸せなことや悲しいことが展開する訳です。よくある話ではあるのですが、物語は年の初めのお正月、七草粥を食べたところから始まり、そして物語は師走、年越し蕎麦を食べそこねたところで終わり。谷中の四季折々の情景がきっちり美しく書きこまれ、自分が一年間、谷中暮らしを体験したかのような楽しい気分にさせられるのです。本を貸してくれた友人は硬い政治、経済ものから甘い恋愛ものまで幅の広い読書家なので、また「これはあなたにお薦め!」とやって来て、私に刺激的な本を手渡してくれるに違いないのです。

今回の篆刻は、「緑水」です。梅雨がないと言われている北国も蝦夷梅雨といわれるものがあるとか‥・それでも、やはりさわやかな、とてもいい季節。太陽と水があると、緑は元気です。緑と水の文字にひかれて彫ってみました。6月の額は、麦の穂がゆれる絵葉書に「緑水」を捺してみました。篆刻にとても興味を持ってくれる静岡の義姉から新茶が届いたので、今回の篆刻の絵葉書でお礼状を書きましょう。

篆刻を日常使いする感覚はあまりないと思いますが、今、私は封書に捺す護封印を4種類ほど作り愉しんでいます。もともと印章は封検するために用いられたそうです。まずは一つ「護封」を作り、次は銭型に「緘」、少し遊んでハートに「封」。そして、魚と雁をデザインしたもの。魚と雁は書信を運ぶ生き物とされ、魚は腹に書信を蔵する話に基づいて使われたようです。これらの印は、全て先生の作品を真似て彫る摸刻をしています。篆刻の勉強は、こつこつ丁寧に摸刻することからから始まります。手紙だけではなく、プレゼントを包む時などシールに捺して使うのもいかがでしょう。小さな印ハートに「学」も、お年玉袋やぽち袋に使ったりと色々考えると篆刻も普段使いが可能です。篆刻の愉しみは、まだまだ奥が深いようです。

2010.6.21